ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

117-1.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズの「Bordeaux supplement」に掲載されている。

私のように40年近くボルドーに関する記事を書いていると、彼の地のワイン産業の周期性を強く感じずにはいられない。私が駆け出しの頃、ボルドーのワイン業界は高名なワイン商一族、クルーズ家(彼らは1847年シャトー・ラフィットの全てのブドウを買い占めた)に大打撃をもたらしたスキャンダルから立ち直るところだった。また、1970年の石油危機の破壊的な影響で1級シャトーがオーガスタス・バーネット(ワイン小売店)のさえない店頭で1本3.99ポンドの値がつけられていた時代でもある。

現在エマニュエル・クルーズ(Emmanuel Cruse)はマルゴーの3級、シャトー・ディッサン(写真はフランソワ・ポワンセ(François Poincet)による)で完璧な経営手腕を発揮し、5月にはこのこの上なく長きにわたりその地位を確立してきたメドックのワイナリーが、ボルドーが3世紀もの間イギリス領となるきっかけとなった1152年の結婚式で提供されたことを記念する正装のディナーをウェストミンスター寺院で開催した。我々の誰一人としてこの863周年がなぜ特別な記念なのか正直理解していなかったが、アンペリアル(8本分が入るボトル)のディッサン1985を最近改装されたばかりのセラリアムで楽しみ、金色に輝く房付きのメニューとイッサンの刻印のされた豚革のカードケースを受け取った。ディナーの写真はアミー・マレル(Amy Murrell;数少ない女性列席者の一人)による。

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先月、隔年開催の国際的なワインフェア、ヴィネクスポはどのワイン産地のそれよりも豪華なランチとディナーに彩られていた。ボルドーで最も多忙な業界は今やワインではなく、これらの食事を提供するケータリング業と、有名な生産者の石造りのシャトーをまるでシャトー保全コンペのようにこれでもかと飾り立てる建築業である。もちろんそんなコンペは存在しない。また、メドックには観光ビジネスというものはほとんど存在しないと言ってもいい。これほど国際的な名声が高いのにも関わらず、だ。(紳士淑女の皆さんはカベルネ・ソーヴィニヨンのもう一つの偉大な聖地、ナパ・ヴァレーと比較していただきたい。)

上述のような多大な出費はボルドーの一等地ではけして珍しくない。ここ4年間のプリムールは失敗に終わったものの、シャトーの所有者たちは2009と2010で膨大な富を得ている。私は最近、以下の文をザ・ワインズ・オブ・ボルドー(The Wines of Bordeaux)というフィナンシャル・タイムズ記者の先輩であるエドモンド・ペニング・ロウゼル(Edmund Penning-Rowsell)の偉大な著書で見つけた。「投機のおかげで生産者たちは生産コストや消費者の支払い能力や意思に関わらず価格の確保を依頼するようになったのである。」彼が触れているのは1970年代初頭のヴィンテージの話で、わずか「生後」6か月のワインをプリムールで消費者に提供する現在のシステムが生まれた時のことだが、彼が書いたことは40年経った今の状況にも十分当てはまる。

精彩を欠いた2011、2012、2013のヴィンテージが売られ(いやむしろ買ってもらうお伺いを立てたと言うべきか)、2010や2009の価格が下落している今、ワイン購入者層は未発達で将来性の不明確なワインへ先行投資するだけの情熱を徐々に失いつつある。はるかに品質の良い2014はボルドーのワイン業界のチャンスだった。妥当なレベルまで価格を下げることで信用を取り戻し、潜在的なプリムールバイヤーを増やすことができたのだ。しかし、おそらく金に目がくらんだり、始値がステータスの象徴だという自己中心的な思い込みがあったりしたのだろう、それを実行に移したシャトーはほんのわずかだった。1級シャトーの価格は控え目で2014は強欲とは程遠い価格だったものの、レベルは超一流だった。また、オーナーが比較的良心的な価格を2014のワインにつけた賢明なシャトーはここで紹介する価値があるだろう。ランシュ・バージュ、ダルマイヤック、カロン・セギュール、カノン、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ、オー・バタイエ、ピション・ラランド・、プリュレ・リシーヌ、ローザン・セグラ、タルボである。

その他控え目な価格の2014で私が気に入ったのはカプベルン、ル・ボスク、ベルナドット、ベルヴュー、ラ・クロワ・ド・ボーカイユ、ド・フランス、グロリアだが、これら競争率の高くないワインはプリムールで購入する必要はないだろう。

アメリカドルが強くなってきたためボルドー市場はアメリカとアジアで少し勢いを取り戻したものの、多くのボルドー人は自分たちのワインが世界の非常に多くのワイン愛好家や、特にオピニオン・リーダーであるソムリエにとって時代遅れであることに全く興味を持っていないようだ。サンテステフの最も著名な二大シャトー、モンローズとコス・デストゥールネルは特に実態を把握していないようで、ある意味消費者をあざ笑うかのような強気な価格を2014につけている。

しかし、強大で周期性のあるワイン販売マシーンの歯車として、生産者、仲介業者、商社、輸入業者、業者、小売がそれぞれの役割を演じているボルドー人たちは間違いなく、先日私が参加したイベントに打ちのめされることもないのだろう。ショアディッチにあるモダンなクローヴ・クラブ(Clove Club)で開催されたそれは「超ダサイのがカッコイイ:ザ・ボルドーランチ」というものだったのだ。

一方、私のお気に入りの「5の倍数の法則」(5で割り切れるヴィンテージは1985年以来フランスでは非常に良い年となる)は次の2015にも当てはまりそうだ。開花はこの上なく順調で、今のところ数年ぶりにすばらしいヴィンテージになる可能性を秘めている。そしておそらくこれが高価格の正当化につながるのだろう。

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