この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。
お友達にワインは好きだが細かいことは知らない、という人はいないだろうか?もしいるなら、この記事を読んで欲しい。
来週、私の人生で最も短いワイン本が出版される。あらゆる意味で、ワイン・ライターにとっても最も書くのが難しい種類の本だ。私が40年をささげたワイン人生をこの1冊のハンドブックに昇華させたもので、分厚い参考書は全く買う気はないが、実務的に最も重要なことだけを把握しておきたい、という人にぴったりの本だ。
この本のコンセプトはワインを知るための近道を提供し、ワインにまつわる嫌な思いを避ける術を身に着けてもらうことであり、さらにはそれを24時間で達成することにある。テイスティング練習(ソーヴィニヨン・ブランを使ってニュージーランドとフランスを比べるなど)の提案もあり、友人と一緒に楽しむこともできる。一度に二つのワインを比べて飲むことは一つだけ飲むよりもはるかに多くの学びを与えてくれる。
ワインの主な役割は喜びを与えることで、人間関係に混乱や不安を生み出すことではない。この本では例えば、レストランでボトルのワインを注ぐ前に(最初のボトルだけではなく全てのボトルで)ごく少量のワインがホストに注がれるレストランの儀式について詳細に説明している。多くの客が、あるいはウェイターたちですら、この儀式を正確に理解していないのではないかと思う。これはあなたがこのワインを好きかどうか確認するためのものではない。目的は二つの確認を行うことだ。一つはラベルを提示された際に自分が注文したものかどうかを確認すること。もう一つは現代では非常にわずかな確率ではあるが技術的な欠陥がないことを確認することで、一般的にはワインの香りを嗅ぐだけで十分だ。現代最も一般的な欠陥はコルク汚染に伴うかび臭さである。
もちろん、それ以外にもワインにとって非常に重要となる、温度を確認するチャンスでもある。これはワインを味わう時でも、グラスをさわることによっても可能だ。赤ワインがぬるすぎたら、氷の入ったクーラーを頼めばよいし、白ワインが冷たすぎたら、クーラーから出してもらうようお願いすればいい。例えば白のブルゴーニュに最適な温度は約15℃であり、赤のブルゴーニュに最適な温度とほぼ同じだ。
実はこの本のアイデアは私の24歳になる娘、ローズがきっかけだった。彼女の友人たちは熱心で賢い定期的なワイン消費者だが、正式なワインの勉強は一度もしたことがない。そのためワインやワインにまつわる知識について娘にしょっちゅう尋ねるらしいのだ。「あなたのお母さんはワイン・ライターなんでしょ。聞いてきてよ」と。
そのことがあって、仕事の合間に彼女は自分の世代向けにワイン本を書こうと考えたのである。もちろんママの手をほんの少し借りて。そのために彼女は友人たちの中からフォーカス・グループを招集し、私のワインの残りもので饒舌になった彼女たちから本当のところ何が知りたいのかを引き出したのである。しかし途中でヴォーグでの仕事が入り、結局彼女は本を書くことはなかった。だが彼女の集めた情報はとりわけ本の性質を決めるという面で非常に価値のあるものだった。私の原稿を読んで何が欠けているかを教えてくれ、奇妙な単語や古臭くて不明瞭な比喩を指摘してくれたのはローズだった。
彼女のお蔭でこの本は地理的な細かい情報は控え目になっており(ただし巻末には最も重要な品種を補完するために世界中を駆け足で巡っている)、ワインにまつわる通説に焦点を置いている。テイスティングの仕方、選び方、提供方法、買い方、なにがお買い得なのか、ワインに関する大きな間違い(例えばどんなワインでも長く置いておけば美味しくなるなど)や、ワインの専門用語についてのガイドなどだ。そしてもちろん、最小限に絞った必須事項の一覧もある。
私は編集者にも大変恵まれていた。セシリア・スタインはこの本がターゲットとする市場そのものだったのだ。彼女は元弁護士の編集者で、ワインを飲むのが大好きだが、ワインをもっと知りたいと強く考えている人物だった。彼女の質問で私はいつもはっとさせられた。例えば、私たちは自然派ワインについては激しいやりとりをした。作り手が保存料を含むあらゆる添加物を避けるというこの流行の飲み物に正式な定義があるわけではないということだけでなく、私から見てそれが彼らに常に利益をもたらすわけでもない点も含めて。
また、彼女は私の文章に「ここの意味が理解できない」とコメントを付けてくれるのだが、私からするとどこがわかりにくいのかが全く理解できずに途方に暮れたこともあった。例えば「ヴィンテージ」という、ワイン用のブドウを収穫した年も、収穫の時期とそれに伴う作業も意味する言葉については衝突もした。これは「瓶熟成」という言葉も同様だ。ワインは瓶内で長時間過ごすことで品質が向上するならば瓶熟成すると言えるのだが、ワインが実際に熟成した年数とは無関係だからだ。(訳注:瓶熟成は英語でbottle ageと言うため、このageがワインの年齢、すなわち瓶内で熟成した年数だと誤解してしまうという意味)
民主主義の発達と世界的な、特に若い人たちの間でのワイン人気のお蔭でワインは以前よりもエリートの飲み物ではなくなった。だが題材としてのワインが潜在的に複雑である事実からは逃れようがない。やろうと思えば、私のようにその詳細に分け入って理解するために人生を捧げることもできるほどだ。
しかし、あなたが出会うワインを十分に楽しむためにそこまでする必要は全くない。この本では自身に満ち、ワイン・スノッブにひるむことのないワイン飲みとなるために必要な全てを解説するように努めた。スノッブたちはかつてほどの力は持たなくなったものの、今でもワインの神話が大好きだからだ。例えばワインを観賞するためには一連の様々な形のグラスが必須であるとか、白ワインだけが魚料理に合うとか、ワインは提供する前に「呼吸」させなくてはならないとか言うように。
そのほかにこの本で特徴的なのは地理的なアペラシオンとその他の品質分類の扱いだ。伝統的なワインの教科書は各国のこれらについて非常に多くのページを割いている。例えばフランスでは最高のワインはAOCすなわちアペラシオン・コントロレとして定義され、その下のカテゴリーにはVDQSと表記されるワイン、その下にはヴァン・ド・ペイ、最下層にはヴァン・ド・ターブルがあると言う具合だ。
これらのカテゴリーは最近ヨーロッパ全体で見直しが行われ、古いAOCは時にAOPと呼ばれ、VDQSはなくなり、IGPがヴァン・ド・ペイに取って代わり、ヴァン・ド・ターブルの代わりにヴァン・ド・フランスが使われるようになった。しかし現実問題としてはこれらのカテゴリーはかつてほどの重要性を失っている。今や品質を正確に反映したものではなくなったからだ。また、現代のワイン生産者は、特に若い世代でAOC法(ブドウの栽培法、収穫法、ワインの醸造法、さらにはそのテイスティング試験法まで決められた)のお仕着せから外れることを選択するようになってきている。彼らはヴァン・ド・フランスとして販売される規則の緩いワインを好むのである。そのため私は現在ヨーロッパ中で大混乱を起こしているこの品質分類に貴重なページの多くを捧げるのをやめた。
重要なヒント
地元のワインショップと仲良くなること(彼らのほとんどはスーパーマーケットよりはるかに品質の良いワインを置いている。どこで買うべきかはこちらのガイドを参照してほしい)。彼らに、今あなたがいいと思っているワインを伝え、それに代わるお勧めを尋ねると良い。
ワイングラスはシャンパーニュだろうとアルコールの高いワインだろうと1種類で構わない。最も重要なことは飾りがなく足のあるもので、こぼさずにスワリングしアロマを最大限に引き出すため、縁に行くにつれすぼまった形状であることだ。
同じ理由でワインはグラスの半分以上注いではならない。
特定の料理に合わせてワインを選ぶときはあまり固く考えすぎないこと。間違えたとしても命にかかわることはないのだから。一般的にワインの色よりもワインと料理の味わいの重さを合わせる方が重要である。
今の時代、非常に良いワインでもスクリューキャップのことがある。
瓶の重さは品質の指標にはならない。
The 24-Hour Wine Expertはペンギンから2016年2月4日に4.99ポンドで発売される。アメリカではアブラムスから9月の予定だ。詳細はwww.24hourwineexpert.comを参照のこと。
(原文)