この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。ここに示す68本の優れた中国ワインに関するテイスティング・ノートも参照のこと。
中国は今や世界で6番目のワイン生産国であり、ボルドー人が発注した分析の結果によれば確実に世界最大の赤ワイン市場である。だから中国人のワイングラスに何が注がれるのかはワインの世界にいるすべての人にとってなかなか重要な問題なのである。
私は今世紀、中国を2年に1回訪問してきたが、それほど頻繁ではない訪問者の目には明らかな変化に訪問のたびに魅了されてきた。私はずっと上海を拠点にしてきたが、先月の訪問で目を引いたのは建設ラッシュの減速であり、それはルイ・ヴィトンの浦東展示場やザ・ワイン・レジデンス(ワイン・インポータであるASC所有の数々の個室ダイニングが入る野心的な数階建てのビル)などのような建物の閉鎖にも反映されている。ASCのアメリカの共同設立者ドン・サン・ピエール・ジュニア(Don St Pierre Jr)はこの会社を日本のサントリーに売却し、彼は今サンフランシスコにある高級ワイン業者ヴァンフォリオに関わっている。ベイエリアには接待に関する公式な制限がないのだ。
中国でのワインの総売り上げは今世紀初頭の驚異的な伸びの後、習近平国家主席による汚職弾圧もあって、ここ4年ほどは横ばいとなっている。今年の中国ワインサミットのテーマは「発展する中国市場の成長の痛み」だ。
だが少なくとも今中国でワインはきちんと飲まれており、高級な包装を施されて人の手から手へ渡り歩く組織的な贈り物ではなくなった。中国農業大学で栽培醸造センターのディレクターを務める段长青(Changqing Duan)教授は中国のワイン市場分析の最も信頼できる権威の一人だ。彼は現在中国でワインを頻繁に購入する層は26歳から35歳で、日々の個人的消費のために購入することの方が贈り物や接待のために購入することよりはるかに重要であるとしている。
私が気づいた最も明確な変化は赤のボルドーに関するもので、赤のボルドーや国内で生産された類似品は現在では中国のワイン市場を席巻してはいない点だ。事実私は中国で5日もワイン漬けの夜を過ごしたが、一度も赤のボルドーを提供されたことはなかった。中国のワイン愛好家の間では赤のブルゴーニュの人気が非常に高いようだが、ワインリストに掲載されていたり店頭に並んでいたりするワインの種類はたった2年前よりもはるかに幅広く、しかも赤ワイン以外のものもあるのだ!
これはワインを中華料理と併せるという意味でよいニュースと言える。国内で生産したものでしばしば見かけられるのが生産量を増やしすぎた若木から作られる薄いカベルネ・ソーヴィニヨンで、これはこの国でしばしばみられる円卓に登場するスパイシーで、時には甘みのある料理にはうまく合わせることができない。
他のアジアの国のように、中国でもチリワインが量ではワイン売り上げに大きな貢献をしてきた。ミネラル豊かなチリは狡猾に有利な貿易協定を結び、多くの競争相手に大きく水をあけることに成功した。
健全な兆候と言えば、中国にバルクで輸入されるワインの割合が減り、現在は21%に過ぎない点だ(イギリスは34%、フランスは80%である)。かつてはできる限り安い輸入ワインを得体の知れない液体に混ぜることが普通に行われていた時期があったが、今はワインのあるべき味わいを知る中国のワイン消費者が増えたおかげでだいぶ減っている。今や世界一流のワイン教育機関WSETの生徒数は中国と香港を合わせるとWSETの本国であるイギリスとほぼ同数となる。
ただし、ワインは引き続き社会的地位と西欧化の偉大な象徴であり続けているものの、この国のブドウ畑の総面積の伸びはワイン生産量の伸びよりもはるかに遅い。すなわちこのひっ迫した時代、収量はさらに押し上げられていることが推測される。
中国でのワイン人気が高まりとともに、賄賂禁止政策の前には素敵に包装された不当に高い値段の付いたワインがもてはやされていた。だがここ最近は中価格帯のワインへの需要が大きく伸び、小売りで販売されるワインの約三分の二は1本あたり60元から180元(6ポンドから8ポンド、あるいは9ドルから28ドル)のものだ。中国でのワイン税は比較的高く、価格によって異なる。多くの中国の高級ワイン愛好家は税金のない香港から特別なワインを巧みに組織された密輸ルート、あるいはもう少し洗練された方法で輸入している。
では中国で生産されているワインの品質はどうなのか?私は訪問する度にできるだけ多くの上質な中国ワインをテイスティングするようにしている。何年もの間それは非常につらい修練だったのだが、この数年は出来の良い、野心的なワインに出会う確率が増えてきた。
前回の中国ワインサミットのワインコンクールは2年前に行われた。参加者は主催者の検閲をパスしなくては審査に参加することを許されない。2014年に我々は53のワインをテイスティングしたが、今年は68のエントリーがあり、10本の辛口の白、寧夏にあるシャンドンによる立派なスパークリング、ロゼ、甘口の白のアイスワインも2本(どちらもハイブリッドであるヴィダル主体)含まれていた。
辛口の白のほとんどは標準的な、国際品種シャルドネのもので、これといった特徴がなかったが(自然ワインフェアにふさわしい1本を除く)、赤のうち3本は(2本はカベルネで1本はシラーだった)非常に洗練されており、どこから見ても上質なワインだった。これらのうち2本は寧夏のもので、中国で最もワインに力を入れている県であり、自治政府が比較的高額なエントリー料を払っている場所だ。一方もう1本は遥か西にある厳しい大陸性気候の新疆のものだった。その他の8本の赤はぎりぎり良い品質と言えるものでしかなかったが、なにしろ2014のテイスティングではたった4本しか突出したものはなかったのだ。
ワインづくりの技術は明らかに大きな伸びを示しており、タンニンはよく熟し、フェノリックの抽出もよく考えられていた。中国のワイン生産者が輸出を真剣に考え始めるのは時間の問題であるのは間違いないし、実際にLVMHはなかなかおいしい新作の雲南産赤ワイン(1本200ポンド)を中国以外の市場をターゲットとして検討中だ。
中国人は今やフランスのワイン教育機関とボルドーのシャトーの所有者の中で目立つ存在だ。以下の写真はポムロールとサンテミリオンの間を走る幹線道路に建つシャトー・グラス・デュ・デ・プリウール(Ch Grace Dieu des Prieurs)の建築風景と、シャトー・バルド・オー(Ch Barde Haut)のすぐ後ろに見える中国人所有のワイナリーによる奇抜な段々畑である。
最近最も目を引く新参者と言えばアリババの創始者ジャック・マーだろう。彼はアントル・ドゥ・メールにあるシャトー・ド・スール(Château de Sours)をミニ・ベルサイユに変えるつもりであると発言したとされ、現在も鋭意検討中だ。中国人はボルドーのプリムール市場からは(今のところ)撤退したが、間違いなくワインからは撤退するつもりはないようだ。
本格的な中国の赤ワイン
Ao Yun 2013 雲南
Dom Cheng Cheng, Yi Pu Cabernet Sauvignon 2013 寧夏
Citic Guoan, Niya Berry Select Cabernet Sauvignon 2013 新疆
Ho-Lan Soul, Special Reserve Organic Syrah 2013 寧夏
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