この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。テイスティング・ノートも参照のこと。
ヨーロッパで作られるワインの約半数は個人や家族ではなく、協同組合が作っている。スペインだけでも約1000、フランスには約700の協同組合がある。基本的にそれらは世界恐慌や第二次世界大戦後の影響から農家が生き残るために結束する必要が生じ作られたものだ。20世紀の間、すなわち質より量に重点が置かれていた時代にはうまくやれていたのだが、市場の求めるものが質となり、かつて利用できたEUの補助金が劇的に削減された今、ワイン協同組合は生き残るための再構築を迫られている。
ワイン協同組合が非常に重要な地位を占めるラングドック・ルーションに行ったことがあれば、やや偏った見解を持っても無理はないだろう。協同組合の運営者たちは長年にわたりタンクの中身よりもブリュッセルからの資金を最大化することにばかり興味を持っているように見えたからだ。この地域には協同組合が合併してどんどん大きくなることで捨てられた1930年代の建築遺構が散在している。
経済的な支えを失うことの他に協同組合の脅威となっているのがフランスではアディロンと呼ばれるメンバーの減少だ。地元の協同組合にブドウを提供するブドウ栽培者の数は1960年代と比較して半分になった。この理由の一つはヨーロッパのワイン・レイク(訳注:ワイン過剰)を解消するため、都合の悪い品種を環境の悪い畑で育てているような農家にEUが積極的にブドウ栽培をやめるよう働きかけたことだ。一方で多くの若いブドウ栽培者たちが現代のワイン生産の社会的地位向上に伴い、自分のブドウが単なる大きな地域名のブレンドの中身として消えて行ってしまうことより自分たちでワインを作り、売ることを選ぶようになったことも挙げられる。
だが、遅ればせながらワイン協同組合を運営する人々の間にも生き残るためには人々が積極的に飲みたいと思うワインを作る必要があると気づく人が増えてきた。この事実の特に具体的な証拠としてはマルクス・アンド・コープ(Marques & Co-op)という、フランス全土の12の協同組合からなる組織が設立され、彼らが結束して技術的な知識、購買力、輸出市場のうわさ、プロモーション活動などを蓄積し始めたことが挙げられるだろう。
これら協同組合の代表者たちが最近ロンドンを訪れ、各組合が最も自信をもつ2本のワインをそれぞれ持参した。私自身あまり期待はしていなかったのだが、いくつかのワインはどの角度から見ても非常に心躍るものだと思った。(写真はタージ・ホテルのインド料理店クイロンでのテイスティングでの協同組合の様子)
かつてこのような協同組合で輸出事業に成功していた例は、対象を北部ヨーロッパの大規模販売店に絞り、多くの場合買い手のプライベート・ブランドとして販売され、協同組合の評価には全くつながらないばかりか収益も少ないものだった。ほとんどの協同組合のワインはボトルではなくバルクで売られていたのである。
だが北部ローヌで最も知られた協同組合であるセリエ・デ・プランスのジェネラル・マネージャーは8年前に彼らがいかにして長期的な決断として、利益を向上するためにワインをギガルやメフレなどのネゴシアンにバルクで売るのではなくボトルで売ることに決めたかを説明してくれた。会議でメンバーにこの新しい方針を表明した彼は大きな抵抗にあい、そのうちの何組かは非常に強硬な反対者だった。だが彼は自慢げに、その非常に強い抵抗を示したメンバーこそが最近になってボトルでの販売に移行するのが遅すぎると彼を非難したメンバーなのだと述べた。彼によると協同組合が成功するか否かはジェネラル・マネージャーとプレジデント(全メンバーの頂点に立つ人物)の仲が良く同じ方を向いて業務を行うことだという。
だが協同組合の運営は地域の問題に大きく依存する。そして我々はフランス人がこと変化についてはけして従順ではないこともよく知っている。
今回のテイスティングで特に喜ばしく思ったのは協同組合のメンバーそれぞれが明確なその土地の個性を表現していた点だ。例えば南西地方の協同組合はヴィノヴァリー(Vinovalie)という名称で、その由来は楕円(オーバル)であり、この地方で人気の高いラグビーを反映している。ヴィノヴァリーは比較的最近、それぞれ評判の良い協同組合(この場合はラバステン(Rabastens)、テクー(Técou)、オルト(Olt))が併合して作られたいくつかのグループの一つだ。ヴィノヴァリーのオリヴィエ・カビロール(Olivier Cabirol)は最近香港で開催されたヴィネクスポで彼のアストロラーベ(Astrolabe)2014カオールが北半球のベスト・マルベックを獲得したと誇りで目を輝かせていた。
もう一つ大規模な併合はロワールで起こった。この地でかつてカーヴ・ド・ラ・ロワール(Cave de la Loire)、ラ・コンフレリ・デ・ヴィニュロン・ドワリー・エ・テゼ(La Confrérie des Vignerons de Oisly et Thésée)、レ・カーヴ・デ・ヴァン・ド・ラブレ(Les Caves des Vins de Rabelais)、レ・ヴィニュロン・デュ・パレ(Les Vignerons du Pallet)と呼ばれていた協同組合が併合しロワール・プロプリエテ(誤解を生みそうな名前だが)となったのだ。その250のメンバーは合わせて5,000haのブドウを栽培し年間5,000万ポンド相当のワインを売り上げる。ロンドンで提供いてくれたどちらのワインもあらゆる意味で卓越していた。長期熟成のミュスカデはル・パレというサブリージョンのものだが、現在イギリスではマジェッスティックで非常に適正な1本11.99ポンドという価格で販売されており、一方のシノンは完ぺきなまでにきめ細かい作業を行うチームによってつくられたと感じる味わいだ。.
アガミー(Agamy)はアナグラム的に作られた名称で、昨年ボージョレのガメイに情熱をささげる優れた協同組合の合併によるものだ。最も知られるブランドはルイ・テット(Louis Tête)で、マークス・アンド・スペンサーの2015ブルイィも提供している。たった数か月のうちに彼らはデカンター・ワールド・ワイン・アワードで金賞と銀賞を獲得した。彼らのスローガンは「あなたのワインに対するイメージを変える」だ。
ジェローム・デゴンド(Jérôme Degonde)はプロヴァンス最大の生産者である(そもそもほとんどの協同組合はその地域で最大の生産者であるが)ヴァール県ブリニョールのエスタンドン・ヴィニュロン(Estandon Vignerons)の輸出マネージャーであり、彼の紹介する4年樽熟成のロゼの特異性について、(確かに無理もないことだが)興奮を抑えきれない様子だった。
もちろん、これらの少量生産のワインは協同組合に花を添えるものだが、フランスの協同組合のセラーには凡庸なワインが数多く転がっているのも想像に難くない。だが本当に品質の高いワインに心躍らせるようになったのはよいスタートであり、マルクス・アンド・コープがさらなるメンバーを求める上で一歩前進したと言えよう。優れた経営を見せる協同組合の中にはラ・シャブリジェンヌ(La Chablisienne)、ユニオン・シャンパーニュ(Union Champagne)、カーヴ・ド・タン(the Caves de Tain)、テュルクハイム(Turckheim)、リヴォヴィレ(Ribeauvillé)、サン・ヴェルニー(St-Verny)など想像以上の結果を残しているものもある。
彼らは今、さらに難しい販売と輸出を成功させる方法を学ぶ段階にきている。
お勧めの協同組合のワイン
これらのすべてがマルクス・アンド・コープのメンバーと言うわけではない。色別におおよそ北から南に時計回りに掲載した。
白
Loire Propriétés, Jubilation, Le Pallet 2012 Muscadet Sèvre & Maine (£11.99 Majestic in the UK)
Union des Viticulteurs de Chablis 2014 Petit Chablis (£13 M&S)
Cave de Turckheim, Riesling Vieilles Vignes 2012 Alsace
ロゼ
Chassenay d’Arce, Confidences Rosé Brut 2009 Champagne
Estandon, Légende Rosé 2012 Côtes de Provence
赤
Les Caves de la Loire, Le Fauteuil Rouge 2012 Chinon
Louis Tête, Memoria Vieilles Vignes 2013 Beaujolais
Cave de Tain, Cuvée 88/77 2014 Cornas
Cave St-Verny Pinot Noir 2014 Puy de Dôme (£9-11 £9-11 RRP Lea & Sandeman, Booths, The Sampler, Quaff Fine Wine Merchants, South Down Cellars, The Wright Wine Company)
Ortas, Ico(o)n 2010 Rasteau
Cellier des Princes, Les Hauts des Coteaux 2012 Châteauneuf-du-Pape
Vinovalie, Astrolabe Malbec 2014 Cahors (not yet bottled)
(原文)