ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

184-1.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートについてはRest of Italy assemblage参照のこと。

私のように溶けたチーズ、素晴らしい景色、多すぎない人、安心できる美味しいワインが好きなら、サルデーニャはあなたを待っている。この写真はカリャリでお気に入りの海辺のレストランの一つでのディナーの前、ちょうど日の入りの頃のものだ。

私はこの夏初めてこの島に旅をし、この島が大好きになった。今回は休暇の予定だったためワイナリー訪問はせず、ワインのプロとも話さなかった。他の旅行者同様、レストランのメニューからアルジオラス(Argiolas)、サンタディ(Santadi)、アグリコーラ・プニカ(Agricola Punica)ほど有名ではない名前をあえて選んだ。

ただし、少しだけ予習はしておいた。我らがイタリアのスペシャリスト、ウォルター・スペラーにいくつかの生産者の推薦をお願いしたのだ。最近のメールと、最新版のオックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワインへの彼の偉大な貢献から、リストにしたのはコロンブ(Colombu)、ヌラーゲ・クラビオーニ(Nuraghe Crabioni)、アレッサンドロ・デットーリ(Alessandro Dettori)、ジャンフランコ・マンカ(Gianfranco Manca)、ジョヴァンニ・モンティーシ(Giovanni Montisci)、パーネヴィーノ(Panevino)、サルト・ディ・コローラズ(Salto di Coloras)だった。だが、なんということか私がこの島の南部と東海岸を旅している間に出会ったのはその中でたった1本だけだった。一方で、それは自然派ワインの長所に関する無償の授業でもあった。

県都であるカリャリの古い町で狭い通りをぶらつきながらアペリティフを探していたところ、サポリ・ディ・サルデーニャ(Sapori di Sardegna)に出会った。そこはイタリア人が得意とするエノテーケ(enoteche)の一つで、地元の軽食と共にワインをグラスで提供する店だ。この店の責任者は熱烈な自然派で、私たちだけでなく外の隣の店の客までも自然派に転向させようとした。

結果的に彼は2つのグラスでサルデーニャの代表的な白ブドウであるヴェルメンティーノの2015を、一つは一般的な手法で作られた、島の北東部でヨットの聖地でもあるコスタ・スメラルダのポルト・チェルヴォにあるヴィーニュ・スラウ(Vigne Surrau)、一つは自然派ワインの生産者であり島の北西部に拠点を置くアレッサンドロ・デットーリを選んで提供してくれた。その二つのグラスはこれ以上ないほど異なって見えた。

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沈みゆく夕日の光が淡い麦わら色のヴィーニュ・スラウを輝かせ、ヴェルメンティーノのレモンのような果実味と爽やかな後味、それに軽やかな塩気が感じられた。デットーリのワインはその濃い黄金色を光が貫くのは難しく、褐変したリンゴのような香りがし、ものすごく強い味わいだった。黒いラベルにはアルコールが15.5%とあったが、この店主は誇らしげに実際は16%に近いのだと語った。私の口の奥の方には明らかにくすぶるような感覚があり、裏ラベルには私からするとやや不吉な感じのする生産者からのメッセージで締めくくられていた。「私たちは自分が好きなワインを作ります。それらはありのままの姿であり、こちらが欲しいと思う形ではありません」これはある意味ワインの記念碑であり、その大胆不敵さを評価されるものであるとは思うが、それを楽しむ必要はなさそうである。

私たちがこの島で楽しんだ実質的にほぼすべてのワイン、特にヴェルメンティーノに共通して言えるのは、それらが愉しみそのものだったことだ。品種としてのヴェルメンティーノはそれを求めるだけの価値があると思われる。けして果実味が不足することはないが、基本的にかなり早摘みすることによって十分な酸が保たれ、料理があってもなくても楽しむことができる。ヴェルメンティーノは島の北東部で栽培されており、1996年にヴェルメンティーノ・ディ・ガッルーラが唯一のDOCG、すなわちイタリア最高の格付けを取得している。これはいまだにサルデーニャ唯一のDOCGだ。カピケーラ(Capichera)のような一部の生産者はブドウをあえて長く樹上に置いておき、豊潤な(しかし甘くない)タイプのヴェルメンティーノを作っている。サルデーニャのヴェルメンティーノがどれも同じようなさっぱりと口の中を洗い流すようなタイプではないという証拠でと言えよう。

長い間、ヴェルメンティーノはサルデーニャと強く結びつけられてきたが、最近のDNA解析によるとリグーリアでヴェルメンティーノと共に栽培されているピガート(Pigato)、ピエモンテ、特にロエーロにあるファヴォリータ(Favorita)、南仏のロール(Rolle)、コルシカのマルヴォワジー(Malvoisie)という品種と遺伝子的に同一品種であることがわかった。

だがヴェルメンティーノという名前は他のものよりもファッショナブルで知名度も高いため、このVを使った名前が産地を問わず次第に広く使われるようになってきた。サルデーニャは400年間スペイン領だったために長いことヴェルメンティーノのルーツはスペインだと考えられてきたが、その証拠はない。事実、イタリア北西部由来である可能性の方が高いようである。

一方サルデーニャの代表的な赤ワイン用品種2つは間違いなくスペイン原産である。ヴェルメンティーノが白の代表格と言うならカンノナウ(Cannonau)は赤のそれであり、スペインのガルナッチャ、フランスの南部ローヌのグルナッシュと同一品種である。私はサルデーニャの生産者たちの間でこの品種が流行しており、この品種から生き生きとした、マドリッド西部のグレドス山脈で見出されるような驚くべきスタイルを生み出していることを知り嬉しく思った。その一方では豊潤でスパイシーかつ凝縮感のある、シャトーヌフ・デュ・パプのようなスタイルのものも見つけることができる(ローヌのそれよりもはるかに安価である)。

もう一つのスペイン系の赤用品種はサルデーニャではカリニャーノ(Carignano)、南仏一帯ではカリニャン、スペイン北部ではカリニェナと呼ばれるものだ。クオリティの低いフランスのカリニャンは酸が高すぎるきらいがあるが、私はかなり前にサルデーニャ南部の特産、カリニャーノ・デル・スルチス(Carignano del Sulcis)に魅了された。この晩熟な品種に魔法をかけるのはこの地の猛暑なのだろうか(サルデーニャの夏は非常に暑い)。

だが、私が偶発的なサルデーニャ・ワインへの旅の中で、最も楽しむことのできたワインは他にないものだった。我々はコスタ・レイの道端にあるトラットリア、Araxi e Mari di G Guidetti にランチのために立ち寄った。30度を超す猛暑の中シェフが男にまきをくべるよう指示していたことに同情したのもあった。そのワイン・リストは明らかにワインを愛する人物が作成したもので、特にコンティーニの2004ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノに興味をそそられた。これは辛口のテーブルワインで、その週の初めにとても美味しいと思ったワインと同じ、ヴェルメンティーノとヴェルナッチャのブレンドだった。

私がそのワインを新鮮な大海老のグリルと共にグラスで注文すると、ウェイトレスがそのワインは甘口だが大丈夫かと警告してくれた。だが私は島の西部で作られるこんな風変わりなワインを見逃すわけにはいかなかった。いずれにしてもフロール、すなわち辛口のシェリーの生産に欠かせない保護作用のある酵母についてワイン・リストで触れられていたことから、そのワインは辛口だと私は判断した。実際そのワインは極辛口だったが、素晴らしく満足のいく味わいであり、ナッツの香りのする辛口のオロロソがオレンジ・ピールの香りを伴って軽やかになったような味わいだった。12年物のこのお買い得なワインはイタリアおよびドイツでは13ユーロから、アメリカでは25ドルで販売されている。

この島ではそこかしこで心躍るような、そして基本的にはユニークなサルデーニャのワインが作られている。今後そのワインたちの多くがこの島から世界に飛び出してほしいと願う。

取り扱い業者はwinesearcher.comより。テイスティング・ノートについてはRest of Italy assemblage参照のこと。

サルデーニャのスター・ワイン

白ワイン

Contini, Componidori 2004 Vernaccia di Oristano 2004

Cantina di Mogoro, Puistèris 2012 Semidano di Mogoro

Cantina Gallura, Canayli 2015 Vermentino di Gallura

Ragnedda, Capichera VT 2014 Isola dei Nuraghi

赤ワイン

Chessa Cagnulari (Graciano) 2013 Isola dei Nuraghi

Cantina Oliena, Nepente di Oliena 2013 Cannonau di Sardegna

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