ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

193.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

イギリスの独立系ワイン商によるザ・バンチ(The Bunch)は1993年、ワイン・ショップのジェロボアムを所有するレイトンズ(Laytons)のグラハム・チジー(Graham Chidgey)が提案し、最初のメンバー7軒が共同してイギリスのワイン業界で良心的なイメージを確立しようとしたのが始まりだ。これは当時顧客がプリムールで購入したワインを届けることなく倒産したワイナリーが複数あった事案に対応するためのものだった。最初のメンバーはアドナムス(Adnams)、アーミット(Armit)、コーニー&バロウ(Corney & Barrow)、レイトンズ、レイ&ウィーラー(Lay & Wheeler)、タナーズ(Tanners)、ヤップ・ブラザーズ(Yapp Bros)で、彼らはどんな条件下でも顧客の商品を守ること、イギリス在住の顧客からは1か月以内なら無条件で(おそらくは未開封のものだけだろうが)返品を受け付けることという倫理規定に同意した。

年月を経てそのメンバーは所有権の変化に伴ってわずかに変わり、現在のメンバーはアドナムス、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッド、コーニー&バロウ、リー&サンデマン、タナーズ、そしてヤップで、6軒というのは料理がたっぷりと載ったテーブルを囲んでその日の話題やらゴシップやらを話すのにちょうどいい数とも言える(高価なワインをゆったりしたグラスに注ぐと6杯になるという事実もちょうどいいのだろう)。ワイン商たちは元来社交的で、バンチの会合における社会的側面はメンバーたちにとって重要な意味を成す。そこで誰もが口にしたがらない重要な話題は言うまでもなくマス・マーケットであり、スーパーマーケットの購買力によって脅かされる独立系ワイン商の立場である。これに対しバンチのメンバーは大量購入する企業には取り扱うことのできない、個性的で、理想的には(必ずしもそうではないこともあったが)独立系の生産者のワインを提供することで対抗してきた(一方マークス&スペンサーはそのワイン発掘のための独特な手法で特別賞に値すると言える)。

だが、このザ・バンチのメンバーに新たな、そしてこれまでとは異なる脅威が出現したと述べるべきだろう。国民投票後のポンドの下落より前からスーパーマーケットのワイン部門にはより利益の高いものを求める圧力がかかっており、ワインの品質に関しては明らかな低下が見られていた。スーパーで手に入るワインとバンチのメンバーが提供するワインの間には時間と共に大きな差がついてきたものの、バンチに代表される典型的な伝統あるワイン商はどう見ても流行の最先端とはみなされない。そもそも、ひげを生やしているのはメンバーの中でアドナムスのアリスター・マーシャル(Alistair Marshall)だけだが、流行のスタイルのものではない。バンチのメンバーの中にはショアディッチがどこにあるかも知らない者もいる。

オッドビンズ(Oddbins)、ワイン・ラック(Wine Rack)、アンウィンズ(Unwins)、ヴィクトリア・ワイン(Victoria Wine)などの小売チェーンの崩壊、少なくとも縮小の続くイギリスでまさにその花を開いている新しく若い独立系ワイン商の群れと比較するとザ・バンチは今や退屈にすら見えてしまう。以下のリストの中にはイギリスで続々と増えるレストランやバーに的を絞ったものもあるが、基本的には世界中のワイン生産国で今目立っている奇抜なワインの新しい波に乗っている。さらにバンチのメンバーはマジェスティック、ネイキッド・ワインズ、レイスウェイトのような強力で輸送力に優れたメール・オーダーやワイン・クラブのような形態との戦いも強いられている。

毎年秋にバンチのメンバーは首都に集まってワイン・メディアに人気のテイスティングを催し、それぞれが最も誇る10種のワインを提供する。実際、そこに選ばれたワインは毎年ワインの流れを知るうえでよい指標となる。

今日のワイン愛好家の非常に多くが心を奪われている点を認識し、今年はほとんどのワイン商が(比較的高価な)ブルゴーニュを提供していた。基本的にロワールとローヌに特化しているヤップでさえ、である。彼らのローヌ・ワインの提供者がヴォーヌ・ロマネのドメーヌ・ポール・ミセ(Domaine Paul Misset)を継承したのだから運がいい。アドナムスとタナーズは2016のシャブリが霜と雹のために大きく生産量を下げることを見越して、卓越した2014のシャブリを提供した。タナーズが23.95ポンドで提供したマルセル・エ・ブランシュ・フェヴレ・プルミエ・クリュ・フルショーム2014は来年のこの時期にはこの上ないお買い得感を感じることができるのではないかと思う。

アドナムスとコーニー&バロウはそのラインナップに自社ブランドのボトルで花を添えていたが、私はコーニーの、マコンにあるドミニク・コルナンの新作、ブルゴーニュ白2015が2014同様素晴らしいことを発見し、その11.95ポンドという価格にうれしくなった。

ご想像のとおり、バンチの仲間たち(ここではメンバー全員を思い浮かべている)は明らかにフランスに傾倒している。今年提供された60本のうち35本がフランスで、うち10本はラングドック・ルーションの非常にコストパフォーマンスの高いものだった。ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッドとタナーズが用意したのは現在(少なくとも最近までは)流行に敏感な人々のお気に入り、ジュラのワインだ。自然派ワインとの境目にあるようなワインもあったが、ザ・バンチが全体的に自然派ワインの流行を受け入れるようになるまでにはまだ時間がかかるのではと思われる。

やっとのことでバンチのラインナップで存在感を発揮し始めたのがイタリア全般で、バローロと、コストパフォーマンスのよいイタリアの白、特にペコリーノだ。タナーズに私は長いこと注目してきたがその品ぞろえは最も良く、サルデーニャを探し続けてきた結果が出ている。この長い歴史を持つ家族経営のシュロップシャーのワイン商はその同僚に比べてドイツの品ぞろえにいつも心を砕いてきた。今回タナーズは1つではなく2つも、2015リースリングの掘り出し物を提供していた。一つは辛口(トロッケン)で、もう一つはカビネットだが、傑出したラインガウのビオデナミ生産者、ペーター・ヤコブ・キューン(Peter Jakob Kühn)、今年ゴー・ミヨでワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選出された人物のものだ。

一般的にはスーパーマーケットが価格で勝負するのに対し、ザ・バンチのような独立系ワイン商はその品ぞろえの面白さで勝負すると思われていよう。だが本質的なワインの品質を考慮に入れた場合、独立系ワイン商にはマス・マーケットに比べて比較にならないほどの価値があるはずだ。私は60本のワインに関するテイスティング・ノートの中で6本にGV(Good Value;お買い得)、さらに6本にはVGV(very good value;ものすごくお買い得)と書いている。その一覧は下記に記した。ワインの世界全体ではっきりと感じられる通り、提供されるブドウ品種の幅広さは昔の一握りの国際品種から見て格段に広がった。10年前にはザ・バンチのメンバーは誰一人としてメルセグエラ(Merseguera)、ブラネック(Vranec)、ボバル(Bovale)、トルソー(Trousseau)など聞いたことがなかったのではと思う。今や彼らもそれらのうち上質なものを取り扱うようになっている。

他の取扱業者はWine-searcher.com で見つけることができる。今回のイベントでテイスティングした53のワイン(自社ブランドのワインの多くはイギリスでしか入手できないためテイスティングしなかった)に関するテイスティング・ノートはThe Bunch’s 2016 selectionsを参照のこと。

お気に入り~どれも非常にコストパフォーマンスに優れている
価格はボトル1本あたりだが12本以上混載で購入すると大幅なディスカウントが受けられる。

白ワイン

Dominique Cornin, Corney & Barrow White Burgundy 2015 Mâcon-Chaintré
£11.95 Corney & Barrow

P J Kühn, Oestricher Lenchen Riesling Kabinett 2015 Rheingau
£13.90 Tanners

Mustiguillo, Finca Calvestra Merseguera 2013 Vino de España
£18.95 Berry Bros & Rudd

赤ワイン

Stobi, Vranec/Syrah/Petit Verdot 2013 Macedonia
£8.99 Adnams

Melis Bovale 2014 Isola dei Nuraghi, Sardinia
£11.50 Tanners

Domaine des Trinitès, Le Portails 2014 Faugères, Languedoc
£12.50 Lea & Sandeman

Domaine Jean-Louis Tissot Trousseau 2013 Arbois. Jura
£14.65 Yapp Bros

イギリスの新進独立系ワイン商

Aubert & Mascoli
Bedales
Borough Wines
Bottle Apostle
Carte Blanche
Les Caves de Pyrène
Caviste
Clark Foyster
D Vine
Dynamic Vines
Forest Wines
Gergovie Wines
Indigo Wine
Knotted Vine
Newcomer Wines
Noble Fine Liquor
Passione Vino
Planet of the Grapes
Red Squirrel Wine
Roberson Wine
The Sampler
Theatre of Wine
Tutto
Under the Bonnet Wines
Vagabond
Vine Trail
The Winemakers Club
Wine Source

(原文)