この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。2015ローヌについてはこちらのガイドも参照のこと。800ものテイスティングノートが掲載されている。
マルセル・ギガル(Marcel Guigal)はローヌ渓谷のゴッド・ファーザーだ。アンピュイにある彼の会社は量(年間700万本を超えるほど)と質の両方を自身の所有する畑と渓谷一帯からの膨大な買い入れとで満たしている点で他に例を見ない。彼にとって2015は、けして悪くない年である1961年に始まった彼のキャリアの中で最高のヴィンテージだ。
才能あふれるネゴシアンであるタルデュー・ローラン(Tardieu-Laurent)のミッシェル・タルデュー(Michel Tardieu)はこう言う。「こんなに品質の高い果汁を味わったことはいまだかつてありません。ワインは濃厚かつフレッシュ。完ぺきなまでのバランスは驚異的ですよ。」
マルセル・ギガルの息子フィリップは現在会社の舵を取っているが、2015の北部ローヌの生育期はあまりに完ぺきで、「ただただ申し分なかった」と話す。冬は非常に雨が多く地下水位を上げ、特に暑く乾燥した「完璧すぎるとも言える」夏への備えは万全だった。2003ほど過酷ではなかった理由の一つが夜には気温が下がった点で、香りと色を保つのに一役買ったようだ(私の知る限りその理由を証明した者はいないが)。いつもの通り8月15日の祝日前後にわずかな降雨があり、おかげで南部ローヌと違い、ブドウが活動を停止し成熟が停滞することはなかった。
長い時間をかけて私が学んだのは、北部ローヌに拠点を置くギガルは南部ローヌのヴィンテージに関する批評が妥当なものであれば、それを当てにしている部分がある点だが、その彼らですら2016は北部より南部が断然良いと認めている。このことを考慮するとなおさら、北部ローヌの2015赤をがっちりと押さえるべき理由がわかる。
エルミタージュもコート・ロティもこの上なく甘やかで、そこに素晴らしく熟したタンニンが乗ってくる。想像に難くないことだろうが、アンピュイの上のそびえる冷涼な高原にいるジャン・ポール・ジャメ(Jean-Paul Jamet)はワインづくりの難題に取り組むのが好きで、最も繊細なコート・ロティを作る人物だが、彼によると2015は「ほんの少し行き過ぎ」だった。大きな新樽や古樽に入った彼の作るワインのもととなるカスク・サンプルを取り出しながら彼は私に、2015に関する自分の仕事は彼の定義するところのヴィンテージの寛容さをどこまで抑えられるかだったと語ったが、「楽しめるようにはなりましたけどね、喜びとエレガントさの両方を備えたワインを作るのは皆さんが想像するほど単純ではないんです。2015の中にはあまりに強すぎて若いうちは楽しめないものもあると思いますよ」と述べた。ジャメにとって2015と2016は2009と2010の組み合わせに似て、後のヴィンテージの方が長寿命なものになるようだと言う。
2015年にはローヌ渓谷のあちこちでそうだったように、ジャメの若木は干ばつに苦しんだ。全体的な問題点としては酸のレベルが低くなりすぎる点と、場合によってはアルコールが高くなりすぎる点だが、雨の少ない夏のせいでブドウの果皮が厚くなった。
公的機関であるインター・ローヌのおかげで幸運なことに31ものコート・ロティをテイスティングする機会に恵まれたが、そこで私はこのアペラシオンでただ力強いだけではなく、ニュアンスを表現した最高のものを作るにはその土地を本当によく知る必要があることがわかった。南部から入ってきたよそ者が「焼け付く丘」に進出したものの、めったに成功した例を見ない。シラーの厚い果皮から果実味とタンニンを抽出するためにはかなりの技術を要し、明らかに行き過ぎてしまい、フィニッシュがドライすぎるものも散見された。2015の有り余る完熟感はコート・ロティが完全なる典型的な作りではないことを意味する。最高のものはただアルコールに組み伏せられるのではなく、古典的でデリケートで、テロワールをわずかに感じることのできる作りになっている。ギガルの最も有名な例、いわゆるラ・ラズはかつて最も強く最も凝縮感のあるものだったが、次第に洗練されてきているように思える。
2015ヴィンテージはコート・ロティよりもエルミタージュにぴったりの年かもしれない。なぜならかなり南部、花崗岩の丘にあるエルミタージュはこの上ない完熟感に堪えうる芯を持ち合わせているからだ。2015エルミタージュの良いものは実際非常に良い。満足度の低いエルミタージュの主な問題点は野心の過剰ではなく欠乏であり、満足度の低いコート・ロティと同様だ。
だが2015北部ローヌのテイスティングをして最もスリリングだと思ったのは、2015の完熟と緻密の最高の組み合わせを体験するために大枚をはたく必要がないと言う点だ。サン・ジョセフやクローズ・エルミタージュなどの控えめなアペラシオンも優れている。ここ数年最高品質のサン・ジョセフが増えているのは明白で、これはシャプティエ、ギガル、そしてシャーヴらはこの広大で不均一な、やや南に位置するトゥルノン周辺のアペラシオンの最高の土地に投資をしているためだ。一方で、2015ヴィンテージが優れている証明としては、しばしばその空虚さや鈍さを批判されるクローズの赤が輝きを放っている点であることが挙げられる。
コルナスも同様で、興味を惹かれる新しい生産者がいる。一方サン・ペレイ2015は珍しく酸が低すぎて締まりのないように思われる。私がテイスティングした北部ローヌの2015白は2014よりもやや精彩に欠けるようだ。暑い夏のせいでさらに加わった厚みは、赤とは違いコンドリューのようなワインには適さなかったのだろう。
とはいえ、ブルゴーニュ不足を強く意識し、ギガルはコート・デュ・ローヌ・ブランの生産量をあえて増やし、2015は1.5倍の75万本にも上るヴィオニエ主体の南部ローヌ・ブレンドを生産している。
概してギガルはヴィオニエ生産の王となりつつあり、コンドリューの生産量は誰にも負けていない。そのうえ毎年品質を強化してきている(一方ジャメもコンドリューを2015年に初めて作っており、息子のロイク(Loïc)のためにドメーヌを拡張している)。「2015白のカギはできるだけ収穫を早くすることでした。」フィリップ・ギガルは言う。さらに彼は赤ワインについても収穫を伸ばすことに何のメリットもなかったと断言する。彼らは白ワイン用ブドウの収穫を9月8日にコンドリューと、サン・ジョセフの最高の畑から始め、そのわずか1週間後に赤用のブドウの収穫をサン・ジョセフ、続いてエルミタージュ、そしてコート・ロティの順で行った。2015年の彼らの収穫はたったの10日間で終わったのに比べ、雨の多かった2016年の北部ローヌの収穫は断続的に4週間にも及んだ。
年明け早いうちに北部ローヌの2015についてはもう少し書こうと思うが、この卓越した北部ローヌ2015に対する見解を今、皆さんと共有したいと思ったのは南部よりも生産量が非常に少ないためで、イギリスの小売店、A&Bヴィントナーズ(A&B Vintners)、アーミット(Armit)、アヴェリス(Averys)、コーニー&バロウ(Corney & Barrow)、ジェネシス(Genesis)、グッドハウス(Goedhuis)、H2ヴァン(H2Vin)、ジェロボアム(Jeroboams)、ジャスティリーニ&ブルックス(Justerini & Brooks)、レイスウェイト(Laithwaite’s)、 ラティマー(Latimer)、ヤップ(Yapp)などはすでに個人客に販売を始めているからだ。もっとも、ステファン・オジェ(Stéphane Ogier)がアンピュイ郊外に作った豪奢なワイナリーで作るコート・ロティは来年までリリースされないようだが。
もし赤のローヌが好きならば、2015は見逃してはならないヴィンテージだ。
北部ローヌ2015のお気に入り
ここに挙げたワインはすべて20点満点中17.5点以上を付けたものだが、これら以外にもかなりよい17点を付けたものもあった。また、初めて聞く名前も見られる。
Dom de Bonserine, La Garde Côte Rôtie
M Chapoutier, Le Méal and Le Pavillon Ermitage
Yann Chave Hermitage
Louis Clerc Côte Rôtie
Delas, La Landonne Côte Rôtie and Les Bessards Hermitage
Ferraton, Le Méal Hermitage
Guigal, Lieu Dit St-Joseph Rouge; Ch d’Ampuis, La Pommière, La Mouline, La Turque and La Landonne Côte Rôtie; Ex Voto Ermitage
Jean-François Jacouton, Pierres d’Iserand St-Joseph
Jamet Côte Rôtie
Dom Michelas St-Jemms, Terre d’Arce Hermitage
Tardieu-Laurent Côte Rôtie and Hermitage Rouge
Verzier, Indiscrète Côte Rôtie
(原文)