この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。以下に触れるワインについてはテイスティング・ノートも参照のこと。
コルク業界はワインを楽しめないレベルからとても飲めないレベルまで変えてしまうブショネの可能性を下げるために開発してきた新たな技術と製品に誇りを持っている。問題は熟成のピークにあるワインを楽しもうとした場合、コルクの品質にまだ大きな疑問が持たれていた時代(大雑把に言って20世紀の最後の25年間)の遺物に出くわすことがある点だ。
ここ数日だけでも、私は今では200ポンドはするだろう1985のポムロールがかび臭い段ボールの香りと味がしたために流しに捨てなくてはならなかったし、の南アフリカの2015白、およそ30ポンドがブショネの原因物質であるTCAの影響はそれほど劇的ではなかったものの、あるべき姿ではない状況にも出くわした。このようなことは今回に限ったことではない。ただ直近の例を挙げたまでだ。ブショネは腹立たしいほどにランダムに起こるものだから、これらのワインの名は明かさない。他のボトルには問題のない可能性が高いからだ。
そんなこともあって、今年初めにロンドンのポートランドでTCAに一度も出会わなかったディナーというのは非常に珍しい経験だった。そのディナーは熟成したフランスの赤ワインを9本紹介するために企画されたもので、そのほとんどが貴重なマグナムボトルに入り、ヴィンテージが1982から1990のものだった。それらは汚染がなかっただけでなく、何十年もボトルの中で熟成したワインに我々ワインオタクが求めるすべてのニュアンスと複雑さを兼ね備えていた。
この非常によく熟成したワイン、各アペラシオン選りすぐりのコレクションのもう一つの特徴は、その価格と入手性の良さだ。それらは比較的最近、リーズナブルな価格で購入されたもので、そのディナーの主催者であるベルギー人でワイン愛好家であるプライベート・エクイティの幹部、トーマス・デ・ウェン(Thomas De Waen)が提供したものだった。(同じようなボルドーなら何倍もするだろうし、ブルゴーニュなら市場からとっくになくなっている。)
更にそれらには少なくとも私が最近注目している偉大な特徴があった。アルコール度数が12.5%しかなかったことだ。この数値は近年では低いと言える。さらに、それらは一緒に提供された料理すべて、しょうゆとショウガのクリームを添えたシイタケのピクルス、味噌を添えた羊のコロッケから、タラの紙包み焼までと素晴らしい相性を見せた。(上写真)
ではそんな魅惑的なまでに価格が安く、魅力的で、長命な宝はなんだったのか?シノンである。言うまでもなく、ロワールにおけるカベルネ・フランの中心地だ。不思議なことにほとんどのシノンは若いうち、5年以内に飲まれてしまうが、今回のディナーでそれがいかにもったいないことかわかった。
デ・ウェンはこのディナーの提案をする際ロワールの布教に熱心な信者のようだった。「最近はロワールにはまっているんです。フレッシュで面白みがあって、確実で、その土地の本当の空気を伝えてくれるんですよ。品質に対する価格だって素晴らしいですし。ただ、最近は少し違ってきた部分もありますけど。」ロワール赤のカルトワインが存在するのは確かだ。ニューヨークのソムリエやワインアプリの関係者が躍起になって追い求めているのは長い歴史を持つフーコー家が生み出す熟成したクロ・ルジャール(Clos Rougeard) で、まもなくボルドーのシャトー・モンローズのオーナーであるフランスの通信会社の億万長者、マーティン・ブイグ(Martin Bouygues)に売り渡される。
そのソーミュール・シャンピニーが非常に若いヴィンテージですら3ケタの価格が付くドメーヌ・オルガ・ラフォー(Domaine Olga Raffault)は、デ・ウェンがメールをして1985、1989、1990で売ってもらえる在庫がないか尋ねたところ、「もちろんです、どのくらい欲しいですか?VAT(付加価値税)込みで40ポンドです」との回答だったそうだ。彼は各1ダースを購入し、我々がロンドンでテイスティングしたものも、特に古いほうの2点が非常に美味しかった。我々が楽しんだものは他にシャルル・ジョゲ(Charles Joguet)、ベルナール・ボードリー(Bernard Baudry)、そしてクーリー・デュテイユ(Couly-Dutheil)で、後者はクロ・ド・レコーの最古のヴィンテージである1983のレネ・クーリーだった。それぞれオークション、イーベイ(デ・ウェンは高級ワインをイーベイで買う強者だ。私はワインの保管状況が心配だが)、ヨーロッパのワインショップなどで購入されたものだった。
最も古いヴィンテージが最も弱いと考えた我々は1982から1990へと飲み進めることとし、初めに非常に魅惑的な1982クロ・ド・ラ・ディオトリー・ヴィエイユ・ヴィーニュ(Clos de la Dioterie, Vieilles Vignes)から始めたのだが、このワインは美しく熟成したシノンのデリケートで香り高い魅力を表現してくれた。このワインの1988ヴィンテージは今回の驚くべき9本の中で私のお気に入りだ。透明感があってフレッシュ、もう1本の1988、こちらもマグナムに入ったベルナール・ボードリーのグレゾー1988より明らかに優雅さを備えていた。 もう1本一目ぼれしたのが最近デ・ウェンがドメーヌから直接買い付けた 1989ピカス(Picasses)だ。他のどれよりも凝縮感が高く、干し肉のような力強さを感じた。
唯一若干ピークを過ぎてしまったと思われたのがレネ・クーリー1983だが、より長命だとされるカベルネ・ソーヴィニョン主体の厳格なボルドーですら、1983であればピークを過ぎることも往々にしてある。東西に延びるロワール川中流域の象徴的な品種であるカベルネ・フランの長きにわたるファンとして私がいつも思うのはDNA解析技術の進歩とそれをブドウに応用したおかげで判明した事実、カベルネ・フランがはるかに有名で尊敬を集めるカベルネ・ソーヴィニョンの親であるという点だ。うまくできれば、例えばサンテミリオンの1級であるシャトー・シュヴァルブランのブレンドの多くを占めるように、素晴らしいワインとなる。
ワインがそれほど持ったのは若さを保つことができる写真のようなマグナムボトルに入っていたからではないかと思う向きもあるかもしれない。だがジョゲの1990マグナムの横に見える通常サイズのボトルに入っていた3本のラフォーも豊かな味わいをもたらし、まだタンニンも感じることができた。
熟成したシノンを買いだめしようとする向きには、価格比較サイトであるwine-searcher.com が便利だろう。大西洋のどちら側にもまだ入手可能なものがかなりあり、そのほとんどがそれほど高くないことがわかる。高級ワイン商はシノンを含む赤のロワールを完全に無視する傾向にあるが、ファイン・アンド・レアワイン(Fine & Rare Wines)ではいくつかのシノンを販売している。ただしその価格は実店舗の小売店よりもはるかに高い。
その夜ディナーを楽しんだ参加者には高名なベルギーの美術商、ワイン好きの法務官、若いフランス人のワイン業界人2名、クリスティーズのアンソニー・ハンソン(Anthony Hanson)を含む3名のマスター・オブ・ワイン、ビベンダムの大食漢、ウィリー・リーバス(Willie Lebus)がいた。我々は皆、これら過小評価された年代物の品質、安定性、そしてTCAからの解放にノックアウトされてしまった。
我々の気分を乗らせるためデ・ウェンがアペリティフに用意したのはロワール川の北側で作られる驚くほど豊かで辛口のシュナン・ブランで、エリック・ニコラ(Eric Nicolas)のドメーヌ・ド・ベリヴィエール・カリグラム(Domaine de Bellivière Calligramme)2010、ジャスニエールだった。来週彼はさらに注目を集めるであろう同じような企画をボルドーの白で行う予定だ。まちきれない。
オルガ・ラフォーを除いてすべてがマグナム。
Charles Joguet, Clos de la Dioterie Vieilles Vignes 1982
René Couly, Clos de l’Écho 1983
Couly-Dutheil, Clos de l’Écho 1985
Olga Raffault, Les Picasses 1985
Bernard Baudry, Les Grézeaux 1988
Charles Joguet, Clos de la Dioterie Vieilles Vignes 1988
Olga Raffault, Les Picasses 1989
Olga Raffault, Les Picasses 1990
Charles Joguet, Clos du Chêne Vert Vieilles Vignes 1990
(原文)