ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

232-1.jpgこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。81本のシュペートブルグンダー(と15本のレンベルガー)のテイスティング・ノートとドイツの2015ヴィンテージに関する膨大なこのガイドも参照のこと。

ピノ・ノワール、すなわちブルゴーニュの赤ワイン用品種を最も多く育てているのはどの国だろうか?当然のことながら、フランスがその王座を占め、その総量はシャンパーニュでの栽培量の急激な増加によって加速している。そして2004年の映画、サイドウェイズのおかげでアメリカのニーズは大きく増加し、2位に浮上した。

一方最近では3位の座はドイツが占めている。ドイツの南西部にあるバーデンというたった一つの地域だけで世界で4番目に重要なピノ・ノワールの生産国であるニュージーランドとほぼ同量のピノ・ノワールを作っているのだ。

次第に暖かくなる夏のおかげもあり、またドイツの消費者が少しずつ赤ワインを好むようになったこともあり、ドイツのピノ・ノワールの総栽培面積は2006年までの20年でほぼ倍増した。この総生産量には様々なクローンや土壌が含まれているものの、ドイツの全栽培面積の約三分の一を占めるという点では安定している。

ドイツ人のシュペートブルグンダー(現地でもピノ・ノワールとして知られているが)人気があまりに高いため、輸出市場でそれらを目にする機会はそれほど多くない。だが私は機会があればそれらを積極的にテイスティングするようにしている。その平均的な品質がこの5-10年で驚異的なほどに向上しているからだ。そして有名な生産者のシュペートブルグンダーが安いことはめったにないものの、ブルゴーニュの価格がばかばかしいほどに高い昨今、その代替品としての魅力も増してきている。

ドイツの生産者のうち偉大なブルゴーニュをモデルとしているのは(ラインヘッセンのクラウス・ピーター・ケラー(Klaus Peter Keller)がその明らかで野心的な例だが)ほんの一握りしかいないようだ。こう書くのはけして批判しているわけではない。ドイツでこの上ないピノの名声を確立しているそれぞれの地域ではそれぞれのスタイルが確立されており、その多くが熟成を待ちきれない気の短い消費者には特に魅力的なものだ。

他の多くのワイン同様、ドイツのピノも樽を使いすぎ、抽出を行いすぎた時代を経験している。ピノ・ノワールのようにデリケートな品種にとっては重大な過ちだ。だが次第に多くの生産者たちがバランスの取れた主張の強すぎないワインを作るようになり、それらは最高のものは瓶内で美しく熟成するポテンシャルを持つにもかかわらず、ブルゴーニュの赤に比べると若いうちから楽しむことができる。

月曜夜に行われる恒例のグローセス・ゲヴェクスの試飲会は、VDPメンバー(ドイツのワイン生産者のエリート集団だ)による最高級辛口ワインの最新ヴィンテージを紹介する場だが、品切れとなったワインがたった1本あった。8本を準備していたベルンハルト・フーバー(Bernhard Huber)2010シュペートブルグンダーはあっという間になくなり、残りの時間はテーブルに無念そうな空瓶が載っているだけだった。

バーデンのフーバーはドイツでも最も尊敬を集めるピノ・ノワールの熟練者の一人で、よくあるアルコール度数の高すぎるスタイルも経験した後、ヴィンテージごとにそのスタイルを洗練させていき、比較的収穫は早いものの熟成のポテンシャルのあるワインを作るようになった。残念ながらベルンハルト・フーバーは故人となったが、最近のヴィンテージではその息子のユリアン(Julian)が彼の後を継いでいる。先日ヴィスバーデンでのランチでテイスティングした彼の4つのグローセス・ゲヴェクス2015はフーバーの特徴である高い酸を保つスタイルを引き継ぎ、それは危険なまでに高すぎるとも思われたが、年月を経れば私が間違っていることが証明されるかもしれない。

バーデンのシュペートブルグンダーのスタイルは、暑く乾燥した夏のためやや甘めに仕上がるため、それを補うだけのフレッシュさを必要とする。

バーデンの熟練したピノ・ノワールの生産者の一人、ツィアライゼン(Ziereisen)はVDPのメンバーではないがその卓越しバランスの取れたワインはブルゴーニュとドイツワインの専門家であるハワード・リプリー(Howard Ripley)がバーデンのシェルター(Shelter)とともに素晴らしい2014シュペートブルグンダーも含め、イギリスに輸入している。バーデンにはさらにカルト的なファンを増やしているエンデルレ・ウント・モル(Enderle & Moll)もある。

更にその地位を確立したドイツのピノ・マスターといえばフランケンにあるルドルフ・フュルスト(Weingut Rudolf Fürst)のパウル・フュルスト(Paul Fürst)だ。涼しい年には早熟なピノとして知られるフルーブルグンダーから珍しく、かつ上質なワインを作ることもある。VDPグローセス・ゲヴェクスのテイスティングにあったフランケンのピノ2015は全体的に心地よく繊細で、対照的なファルツと比べて果汁とフルーツを強く感じるものだった。

ドイツの2015年の生育期はこれまでになく暑く乾燥したものであったため、酸のレベルが危険なまでに低いこともあった(おそらくこれがほとんど酸っぱいと表現するしかないほどのフーバーの2015のスタイルに結び付くのかもしれない)。そのためファルツのワインのかなり多くがもう少し果汁の時点でどうにかできたのではという味わいだった。

一方、もう少し冷涼な気候のラインガウやラインヘッセンで作られたフレッシュだけれども酸が高すぎないシュペートブルグンダーは楽しむことができた。

得意分野であるシュペートブルグンダーに高価な値を付けているのがアールだ。北部にある小さなこの産地は特徴的なスレートと玄武岩からなる土壌で、それらがワインにある種の温かみのあるざらつきを与えているようだ。価格指標になるとすれば、J Jアデノイアー(J J Adeneuer)、マイヤー・ネーケル(Meyer-Näkel)、ジャン・シュトッデン(Jean Stodden)などがドイツではピノの神とされているが、希少さも一役買っているのだろう。

輸出市場ではシュトゥットガルト周辺のヴュルテンベルグのワインはあまり多く見かけない(ザ・ワイン・バーン(The Wine Barn)はアルディンガー(Aldinger)の素晴らしいワインをイギリスに輸入しており、1本13から39ポンドで扱っているが)。個人的にはヴュルテンベルグのハーブの香るうまみのあるシュペートブルグンダーはかなりの量生産されており、年々品質も向上しているので、もっと海外でも見られるようになって欲しいと思う。

ジャスティリーニ・ブルックスはイギリスの伝統あるワイン商だが、彼らはドイツのワインを最も真剣に取り上げており、最新のグローセス・ゲヴェクスのプリムールも扱っている(ほとんどが2015の赤と2016の白だ)。例えばフュルストのピノは6本で保税価格260から410ポンドだが、イギリス国内では1本売りでさらに低価格のものも見つけることができる。

マークス・アンド・スペンサーでは元バイヤー、ゲルド・ステップ(Gerd Stepp)の作るパラタイア(Palataia)のピノ・ノワールを10ポンドを少し超える程度で販売していることがある。2015は特によかったのだが、現行ヴィンテージはそれよりも少しやせた2016に移行しつつある。マークス・アンド・スペンサーでのベスト・バイは15ポンドのステップS2015で、ファルツの核ともいえるミッテルハートにある畑から作られたものだ。

もう一つ、格段低い値段のつけられたファルツのピノはドクター・ローゼンのヴィラ・ヴォルフ(Villa Wolf)で、10ポンド前後でオッドビンズ(Oddbins)などが取り扱う。まったく甘さを感じないというわけではないので、早めに消費すべきワインだ。

イギリス最大の近代的なドイツワインの供給元はメイダ・ヴェールにあるザ・ワイナリーと、小さなチェーンであるリー・アンド・サンデマンで、ラインヘッセンにあるブラウンウェル(Braunewell)のピノ2種をそれぞれ14ポンドと17ポンドで提供している。価格の高いものほど質も高い。

モーゼルは伝統的に赤ワイン用品種が成熟するには寒すぎると考えられてきたが、最近は変わってきた。F Jレグネリー(F J Regnery)などのような生産者がドイツのワイン産地もピノの領域であると示している。

お気に入りのグローセス・ゲヴェクスのピノ・ノワール

アール
Meyer-Näkel, Walporzheimer Kräuterberg 2015
Meyer-Näkel, Dernauer Pfarrwingert 2015
Jean Stodden, Recher Herrenberg 2015

フランケン
Rudolf Fürst, Bürgstadter Centgrafenberg 2015
Rudolf Fürst, Klingenberger Schlossberg 2015

ファルツ
Knipser, Laumersheimer Kirschgarten 2013
Dr Wehrheim, Birkweiler Kastanienbusch Köppel 2014

ラインガウ
Joachim Flick, Wickerer Nonnberg Fuchshol 2015
August Kesseler, Assmannshäuser Höllenberg 2015
Franz Künstler, Assmannshäuser Höllenberg 2015

ラインヘッセン
Keller, Westhofener Morstein 2014
J Neus, Ingelheimer Horn 2015

ヴュルテンベルグ
Wachtstetter, Pfaffenhofener Hohenberg Glaukós 2015

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(原文)