この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートはFrom the flanks of Mont Ventoux を参照のこと。
ヴァントゥーはこの20年間で最も大きな変化を遂げた南フランスのアペラシオンと言えよう。
そもそも、その名称が暫定的なコート・デュ・ヴァントゥーからツール・ド・フランスのサイクリストやそのファンの心に響く単語一つに変わった。数マイル先からもヴァントゥー山の白い尖った山頂を見ることができるこの地では、地元のブドウ栽培者たちは西プロヴァンス最高峰がもたらす冷涼な影響を十分に生かしている。
1970年代リュベロンで私が1年過ごした頃、地元のワインはあまりにも寒かったために気の抜けた、ただ赤ワインとのみ表示されるだけの液体だった。だがこの数年、ヴァントゥーの赤は丘を下り西に向かったところにあるシャトーヌフ・デュ・パプ同様の色とボディを持つようになってきた。
これは気候変動のありがたい影響といえる。先の6月、私たちがこのアペラシオンの旗手の一つであるドメーヌ・ド・フォンドレッシュ(Domaine de Fondrèche)に到着した際、セバスチャン ヴァンサンティ(Sebastien Vincenti)は「1990年代半ばからの気候変動は 私たちにとってありがたいものでしたが、これ以上進んでほしくはありません」と述べていた、その時の外気温は37度だった。セミは2日前から夏の賛歌を歌い始めていた。彼はテイスティング前に畑を歩き回る時間を最小限にしてはと提案した一方、夜にはヴァントゥー山から降りてくる冷たい空気のおかげで気温は17度近くまで下がるとも話した。その様子はこのアペラシオンの第一人者でもあるシャトー・ペスキエで示されていた下図によっても理解できるだろう。
ヴァントゥーとそのすぐ西にあるアペラシオン、ジゴンダスやボーム・ド・ヴニーズとの違いは様々にまじりあった土壌の違いではなく、気候である。特に非常に効果的な昼と夜の温度差だ。例えば地元のカルパントラはこの地域で日中は最も暑いが、夜は最も寒い町だ。このため生育速度は落ち、ヴァントゥーのブドウの発芽は例えばシャトーヌフ・デュ・パプと比較して明らかに遅い。収穫もまたはるかに遅く、10月に入ることも珍しくない。そのためブドウは収穫された時点で温度が低く、長い生育期間の恩恵も受けることができる。
風の名に由来すると思われるその名とは裏腹に、ヴァントゥーは西部にあるアペラシオンにある開けた田舎の方では時に悩みの種になる有名なミストラルはあまり強く吹き付けない。
一方でどちらの地域でも栽培されているブドウは非常に似ている。最近流行になりつつあるグルナッシュが主体だが、ヴァントゥーの涼しい夜は南ローヌで最も暑いアペラシオンのシャトーヌフ・デュ・パプに比べ、特に標高が高い場所で北部ローヌのシラーの方が向いていると言える。ヴァンサンティはこの地域の三大品種の一つである成熟の遅いムールヴェードルの栽培北限であるのだとも話していた。サンソーはロゼの原料として重宝されるが、ここではプロヴァンスの平均的なものより肉付きがよくなる傾向にある。
マルスラン(Marselan)は比較的最近カベルネ・ソーヴィニョンとグルナッシュを交配して作られた品種だが、10年ほど前にヴァントゥーで使用可能な品種に加わった。シャトー・ペスキエのショーディエル(Chaudière)兄弟はこの品種がミストラルの乾燥をもたらす効果を得られない畑に害をもたらすカビ病への耐性を持つことに注目していると公言している。
だが少々のうどんこ病など、今年4月19日に起こったことと比べたらどうということはない。この日畑によっては気温が-5度まで落ちたため、温暖な春のおかげで生育期が2週間早かった畑に壊滅的な被害、過去50年で最悪の霜害をもたらした。「私たちはここが南ローヌで最も冷涼なアペラシオンであることを自慢に思っています。」フレデリック・ショーディエル(Frédéric Chaudière)はそう述べたが、憂鬱そうにこう続けた。「そしてその証拠がこれですよ。」2017年の収穫は間もなく終了するが、彼はそれがこれまでで最も(あの2003年よりも1週間)早かっただけではなく、収量もこれまでになく低く、平均の40%ほどしかなかったと話した。
ノコギリの歯のように美しく折り重なったダンテル・デ・モンミライユの際にあるジゴンダスと異なり、ヴァントゥーのワインは3色すべてを生産しているが、夏が暑くなってきたために白ワイン用に適したテロワールを持つ場所が減ってきた。白ワイン用の品種はこの地域では想像に難くない品種で、グルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、ヴィオニエ、ロル(ヴェルメンティーノ)、クレレットだ。
他の産地同様、樽の効いた白が流行した時期もあったが、現在はバリックの使用はどんどん減少し、例えばフォンドレッシュは奇抜なコンクリートの卵型タンクを7年も前に導入し、現在は人気のあるオーストリアのストッキンジャー製大型オーク・バットも導入している。ペスキエの最新の赤、心地よい張りの感じられる2015アセンシオ(Ascensio;98%樹齢の高いグルナッシュ、梗20%)は比較試飲の結果樽を使わずにあえてコンクリート・バットだけで熟成することにした。
いずれにしても現在のところヴァントゥーのトップクラスのワインでも、南ローヌで名の知れたほとんどのワインより価格が低い。フォンドレッシュのペルシア(Persia)の小売価格は1本あたり20ポンドを切るし、ペスキエのカンテサンスも同様だ。(写真はシャトー・ペスキエに続く壮大で歴史ある道)
地元のブドウ栽培者のほとんどは質素な地域に暮らし、自分たちの作ったブドウを1ダースほどあるアペラシオンの協同組合に持参する。その中でも最も品質に重点を置いているのがベドアン(Bédoin)とケーロン(Cayron)だ(後者はシャトーヌフ・デュ・パプのペラン家が所有し成功しているラ・ヴィエイユ・フェルム(La Vieille Ferme)に原材料を提供している。)
だが、この広く不均一なアペラシオンの北西部に位置し、南ローヌで最も高価なシェーヌ・ブルー(Chêne Bleu)ほど品質に重点を置く組織はないだろう。アペラシオンの中でも最も標高が高い600mにあるラ・ヴェリエールというこの地はロンドン証券取引所頭取のザヴィエ・ロレ(Xavier Rolet)が、妻のニコラと出会う前から彼のワインの夢を叶えるため見いだしたものだった。12年かけてすべての土壌と品種を検討した結果、彼女はそれを完全に作り替えた。「今までの仕事の中で一番難しいものでした。」とシンクタンクからの亡命者は話した。
彼女はヴァントゥーというアペラシオンはごく一部のレンジ、たまたまザヴィエの姉や義理の弟がつくったものなどにしか使わない。他のものにはヴァン・ド・ペイの後継であるIGPの自由さを好み、それを使っている。彼女によるとラ・ヴェリエールは冷涼な影響を受けるにはヴァントゥー山から遠すぎると考えており、それは目を見張るようなアルプスの遠景を楽しめる彼女のテニスコートに吹き付ける強い北風からも見て取れる。
その可能性が明らかになったことでヴァントゥーの畑の地価は上昇しつつあるが、今のところまだヘクタール当たり20,000~25,000ユーロで、ラングドックで名のあるクリュよりも安いし、ジゴンダスの10分の1、シャトーヌフ・デュ・パプの20分の1程度だ。もし私が(あり得ないことだが)若いヴィニュロンとして身を立てるとしたら、ヴァントゥーの良い場所を注意深く選ぶに違いない。ニコラ・ロレが話したように、「15年後にはヴァントゥーは偉大な産地になっているはず」だから。
お気に入りのヴァントゥー
世界の取扱業者はwine-searcher.com で、テイスティング・ノートはFrom the slopes of Mont Ventouxを参照のこと。
白ワイン
Ch de Fondrèche, Persia 2016
Vintur, Séléné 2014
赤ワイン
Clos de Trias, Vieilles Vignes 2010
Ch de Fondrèche, Divergente and Persia 2015
Ch Juvenal, Les Ribes du Vallat and La Terre du Petit Homme 2015
Ch Pesquié, Ascensio, Artemia and Quintessence 2015
St-Jean du Barroux, La Pierre Noire 2010
Dom du Tix, Cuvée Bramefan 2015
(原文)