ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

274.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

このあと4週間、ラングドックでの休暇に入る予定があるのだが、ロンドンの家を出ようとすると届くかのように思えるワインの山のテイスティングに忙しくしている(同情は期待していないが) 。

このようなテイスティングを行うと、ことワインに関しては価格と品質の間に直接的な関係はないという私の信念を改めて裏打ちする結果が得られる。あまりに多くのワインがワインを愛する人々ではなく、明らかにマーケティング側の人間、あるいは名声を博したり守ったりすることに熱心な人々によって価格付けされているためだ。比較的新参のワイン生産者たちは幅広い品ぞろえのワインを持つべきだと考えているようだ。すなわち、エントリー・レベルのものから、疑いもなくプレミアムと呼べるもの、さらにはスーパー・プレミアム、そして多くの楽観的な商売人によってアイコン・ワインと呼ばれるものまでである。

大量市場を対象としたワインに関しては、真ん中の層が最も価格に対する価値が高い傾向にあると感じている。安い価格帯のワインは個性に欠け、最も価格が高いものは樽やアルコールが強すぎる傾向にある。一方であまり工業化されていない生産者のワインとなると、今飲むのに最も魅力的を感じられるのは彼らのワインの中で最も安価なものであることもある。

非常に多くの場合、同じ生産者から作られる様々なワインは、その味わいの違いが品質や品種の性質ではなく、セラーの中で行った作業の違いに由来しているように感じられる。高級なワインになればなるほど凝縮感が高く、他のワインに比べ樽の使い方がより積極的になるのだ(それが新樽の比率の高さや樽熟成の長さで表されることもある)。これらが意味することは、ワインがリリースされたばかりの段階ではワインはまだ赤ちゃんであり、ここまで野心的に作られていないワインに比べて飲みやすさには欠けるということだ。

この現象はスペイン北西部、ビエルソから作られる固有品種、メンシア主体の3本の赤で顕著に見られた。これらは賞賛を集めるドミニオ・デ・タレスのもので、彼らは2000年の設立以来、この復活を遂げたワイン産地の旗艦といえる生産者であり続けている。

よくあることではあるが、この3本の中で私が最も気に入ったのは最も価格の低いものだった。バルトス2016は市販価格が1本15ポンドである。樹齢40年の古木から作られ、古樽で6か月熟成させている。愛すべき、すぐ手の届く果実味と魅力を兼ね備え、ビエルソ、あるいはメンシアがそれと知られるようになった繊細な高い酸のバランスが明確に感じ取れる。

セパス・ビエハス2015は、バルトスより1本あたり5ポンド高い。ブドウは樹齢60年のものを使い、古樽で9カ月熟成してある。おそらく古木で収量も非常に低いはずだが、悪い意味でバルトスよりも明らかに濃く凝縮感が高い。その結果アロマと表現力に欠けてしまっていた。辛口で骨格とタンニンが強いのは特に果皮の厚い品種で作ったワインに見られる強烈な性質だが、収量の低いブドウ、特に干ばつの年に顕著にみられる。このワインは3本の中で一番好みではなかった。

ドミニオ・デ・タレスは最高級のP3を今回のセットに入れていなかったが、3本の中で最も価格の高いベンビブレ2015、北アイルランドのジェームス・ニコルソンで32.99ポンドで販売されているワインは野心を感じさせる作りだったが、そのボトルの重さも然り、だった。ワイン生産者やマーケッターには、消費者がワインを瓶の重さで選ぶというある意味幼稚な概念から早く抜け出してほしいと心から願う。そんなものはおしっこを遠く飛ばせた方が勝ちと考える小中学生のようなものだ。ガラスは作るのも運ぶのも金がかかるのだ (Down with bodybuilder bottles 参照のこと)。

このベンビブレ2015 はまさに自己を確立していると言えるにふさわしい品質だ。すがすがしいほど標高の高い場所にある「非常に樹齢の高い」ブドウから作られ、フレンチ・オークで15カ月熟成しているため、高品質のビエルソに見られるエネルギーに満ち溢れ、あらゆる点で多くのポムロールのように壮麗でビロードのようななめらかさを持ち合わせているとはいうものの、そのやや粗い角が丸くなるにはあと数年は寝かせておくのが理想的だろう。不満と言えば、これがまだ飲み頃ではなかったことだ。最近は数週間以上ワインを保管するのにふさわしい涼しい場所を確保できている家庭は多くないのだから。

このスペインの3本のワインをテイスティングしたのと同じ時期、私の尊敬するもう一人の生産者、ステレンボッシュで賞賛すべきケビン・アーノルドが経営するウォーターフォード(上写真)の一連のテイスティングも行った。彼はウォーターフォードの所有者であるジェレミー・オードの高い評価を受け、彼の名前をその優れたシラーズ2014に関することを許された人物だが、グルナッシュ2015にもまた私は感銘を受けた。

一方、私の価格と品質が反比例するという法則を裏付けることとなったのはカベルネ・ソーヴィニョン主体の2本のワインだった。彼らの作る、広く知られた品種であるカベルネ・ソーヴィニョン2014は純粋な喜びを与えてくれるものだった。あまりに素晴らしかったため、ディナーに参加したゲストたちははるかに贅沢で4,5倍の価格はするトスカーナのボルドー・ブレンド、テヌータ・ディ・トリノーロ2016よりも早く、あっという間にそのボトルを空にしてしまった。真のクラレットスタイルであるケープ・キャブ(訳注;ケーブのカベルネ)は完熟(ケープの広くウイルスにやられている畑では常に完熟したブドウが得られるわけではない)とフレッシュ感、そしてニュアンスのある旨味の間のバランスの中心を絶妙に射抜いていた。バルトス2016同様、すぐに心地よく飲めるワインだ。

ところが、それよりも2年古い(そして遥かに価格の高い)ジェム2012はまだ飲み頃ではなかった。このワインはウォーターフォードの所有者の名前にちなんだもので、またしても馬鹿々々しく重い瓶に入っていて、セパス・ビエハスをほうふつとさせるようなものだったが、現在楽しんで飲むには居心地の悪いほど酸とタンニンが高いにも関わらず、すでに市場に出回っている。

もちろん、ここに述べたことは私が常に出くわす現象のごく一部だ。 だがここには構造的な欠陥が見て取れる。ほとんどの人が自分のセラーを持たないこの時代、そして保管のためにお金を払うという習慣が確立されている対象は非常に高級で古典的なヨーロッパのワインだけであるという事実にきちんと向き合うのならば、生産者は自分のワインが飲み頃になってから販売するという点についてもっと慎重に考えるべきだと思う。

スペインの生産者の中には素晴らしいほどこの点を考慮している人たちがいる。特にリオハやリベラ・デル・デュエロの歴史ある生産者たちだ。だがほとんどのワイン生産者たちは飲み頃になるよりも遥かに早く最も高価なワインを販売してしまう。もし彼らが、ボルドーの傑出した生産者やブルゴーニュのこの上なく心を尽くした生産者が今行っているように、それらのワインをもっと若くして楽しめるように作るのだとすれば、その方がよほど思慮深いことだと思う。

ボルドーの格付けで上の方に位置するワインのセカンドワイン、例えばシャトー・パルメのアルテ・レゴなどは10年も20年も待っていられない、あるいはワインを寝かしておく手段がない人々にとって、グランヴァンよりもはるかに良い選択となるはずだ。

今飲むために最高にお買い得な赤ワイン

Fattoria San Francesco 2015 Cirò
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Vidal-Fleury 2015 Côtes du Rhône
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Waterford Estate Cabernet Sauvignon 2014 Stellenbosch
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