ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

278.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

おそらく多くのワイン愛好家にとって完全菜食主義者(ヴィーガン)向けワインの存在そのものに説明が必要だろう。動物?一体ワイン生産のどこに動物製品との関わりがあるというのだろうか?

実はその関わりとは、我々がワインを淀みなく澄み切った飲み物であってほしいと願うことであり、そのためにほとんどの生産者はワインの清澄化を行っているということだ。

長い時間と、そして経費をいくらでもかけられる多くの最高級ワインの場合は、濁りの原因になる微細な粒子が自然に何か月もかけて沈殿するのを待つことができる。だがその他多くのワイン、そして経費を最小限にしたいすべてのワインに関してはそこまで時間をかけることはできない。最も速く最も効果的に清澄化を行うには、小さな断片や、重合化したタンニンや色素などの大きな分子を凝集させたり吸着したりする清澄剤を加え液体から分離することが必要だ。生産者によっては濾過を行う場合もあり、この点については品質に与える影響に議論があるところでもあるが、清澄剤の選択によってワインの味が変わるものではない。

ワインに使用が許されている清澄剤のうち、驚くほど多くのものは動物由来だ。ボルドーのシャトーや品質に敏感な生産者は長きにわたりアルブミン、すなわち卵の白身を使ってきた。卵黄主体で作られる多くの料理や焼き菓子は恐らくこのワイン作りの工程から出る副産物がその由来であると推測される。

20世紀末にEUは伝統的な清澄剤である乾燥血液の使用を禁止したが、そのほかによく使われる清澄剤は魚の浮袋に由来するアイシングラス、ミルク由来のカゼイン、伝統的に肉の廃棄部分から作られるゼラチンなどである。これらのどれもがヴィーガンを貫く人の支持を得られるものではないため、豆やジャガイモなど野菜由来で同じような働きをする製品に少しずつ取って代わられるようになってきた。

イギリスに限ったことではないものの、それでも特にイギリスで目立つのが多くのワイン小売業者やインポータがこの数年(あるいは数か月)の間にヴィーガン・ワインの需要の高まりを意識するようになってきた点だ。イギリスのバーやレストランへ多くのワインを供給するリバティ・ワインズのデイヴィッド・グリーヴ(David Gleave)によると、最近最も頻繁に顧客から受ける質問はヴィーガン・ワインを扱っているかどうかというものだ。彼は「ガブローシュからの問い合わせはないですけどね」と付け加え、ロンドンにあるミッシェル・ルーJrのフランス料理の殿堂を引き合いに出した(訳注:フランス人は菜食主義に興味がないことをほのめかしている)。

奇妙なことに、他のアルコール飲料同様ワインは食品に課せられる原材料のラベル表記を免除されている。もちろん、理論上清澄剤がワインに残ることはないのだが。いずれにしてもワイン消費者はどのワインがヴィーガン・フレンドリーなものかは生産者や小売業者の情報に頼るしかなく、より多くの人々がそうするようになっている(以下参照)。

大量消費市場でどのワインがヴィーガンに向いているか早いうちから明記するようになった先駆けは10年ほど前のマークス&スペンサーだろう。バイヤーであるスー・ダニエエルが1990年代後半にはベジタリアンに適したワインをラベル表記するよう働きかけていたのだ。マークス&スペンサーの購買チームは規範的なことで有名で、彼らが推奨することで彼らにワインを提供するワイナリーは次第に動物由来の加工剤を使わないようになり、今では彼らの扱うワインの70%はヴィーガン・フレンドリー(さらに5%はベジタリアン対応)とラベルに記載がある。下の写真はマークス&スペンサーの英国産ワインのバックラベルだ。

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受賞歴のあるイギリスのワイン生産者、キャメル・ヴァレー(Camel Valley)のボブ・リンド(Bob Lindo)は「私自身はヴィーガンでもベジタリアンでもありませんが、私たちのワインは常にヴィーガン・フレンドリーです。だって果物から作る飲み物に動物製品を加えるという理論の意味が分かりませんから。でも昔は「ヴィーガン」という言葉は偏ったイメージがあったので「ベジタリアン」と表記していました。」と話した。

ヴィンセレモス(Vinceremos)はリーズにある有機ワイン専門のインポータだが、彼らは1980年代後半からヴィーガンに適したワインというラベル表記をしていた(当時は彼らの顧客の多くがヴィーガンという概念に当惑しただろう時代だ)。現在彼らの扱う370強の有機またはビオデナミのワインのうちたった8本しか、ヴィーガンに向かないワインはない。だが、有機ワイン同様、言葉の上で支持することと実際に主要な団体から認証を受けその実行を証明することでは雲泥の差がある。

ヴィンセレモスのマネージング・ディレクタージェム・ガーデナーによると「この2年ほどの間に我々にワインを供給する人たちの中からヴィーガン・ワイン認証を受ける方向へ進む人が出てきました。そしてそのほとんどはイギリス・ヴィーガン協会によって認証を受けています。我々の意見ではこの団体が最も明確な団体だからです。」ザ・ヴィーガン協会による登録標をラベルの右上に表示するためには、ワイン・ブランドの所有者は詳細な醸造工程と共に申請を行わなくてはならない。

そのとりわけ広い視野から、彼はさらにこうも見ている「ベジタリアンはその菜食主義に関してヴィーガンよりも厳密でないように聞こえます」。一方、フランスのような一部の国では、少なくとも最近までヴィーガンという言葉は否定的なニュアンスを含んでいた。

有力なイギリスの実店舗を持つワイン販売チェーンであるマジェスティックとその姉妹店かつオンラインの専門店であるネイキッド・ワインズはヴィーガン・ワインの絞り込み機能を(ネイキッドは2012年から)導入している。おそらく予想通りと言えようが、より保守的な顧客を主体とするザ・ワイン・ソサイエティがヴィーガン対応しているワイン(1500種以上のうち286種)かどうかを表示するようになったのはたった半年前ほどからのことだ。だがこれほどまでに確立したイギリスのワイン鑑識の府ですら動いているということはヴィーガン時代の到来を明確に示していると言えよう。

イギリスにあるザ・ヴィーガン協会のウェブサイトはワイン愛好家にとってそれほど役に立つわけではないが、バーニヴォアドットコム(barnivore.com)はワイン醸造において動物由来の製品を使っていないブランドを知るには最適だ。牛乳または卵由来の製品残渣が含まれる可能性がある場合、瓶詰め業者にそれを明記することを求めているアレルギー物質規制は、ワイン生産者にできるだけ動物由来の製品を使わないよう呼び掛けている。

だが、この件で非常にややこしいのはワインを作るにあたり畑においてどんな動物あるいは動物由来製品が用いられているかという点だ。インディゴ・ワインはエネルギッシュで革新的なロンドンのインポータで、ヴィーガンのワイン愛好家の多くを引き付けるある種最先端の販売網にワインを提供している。彼らは昨年来ワイン愛好家のヴィーガンに関する要求があまりに顕著になったため価格表にヴィーガン・ワインを特定できる欄を設け、ウェブサイトには特別な解説ページを加えた。

一方でこのインディゴのマネージング・ディレクター、ベン・ヘンショー(Ben Henshaw)は「動物が畑での作業に使われていたり、肥料に動物製品が使われたりしていたらそのワインはヴィーガンと呼ぶべきではないという人もいます。我々はヴィーガン協会とバーニヴォアのサイト、それからこの件に関する多くの記事を読み、そこまでの基準は採用しないことに決めました。なぜならそうすると一番エコを意識したワイン生産者である有機やビオデナミの生産者を除外してしまうことになるからです。」

堆肥は長きにわたり化学肥料の環境に望ましい代替品とされてきたし、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティやシャトー・ラトゥールの畑で使われている馬は誠実さの究極の象徴であり、どんな機械よりも土壌の硬化を防ぐとされている。まあ、ヴィーガンとワイン1本あたり3-4桁(ポンド)を支払う人のベン図に重なりはほとんどないだろう。少なくとも今のところは。

主なイギリスの生産者のヴィーガンに対する方針

Aldi – ヴィーガン・ワイン17 種を取り扱い
ASDA – 今のところ回答なし
Co-op – 常に原材料のラベル表記には前向き;76種のワインはヴィーガン・ワインと明記、年末までには100種を目標とする
Lidl -今のところ回答なし
M&S – 取り扱いワインの70%、現在273種を取り扱い。全てラベルに明記。
Morrisons – 回答のために取扱商品を確認する時間がない
Sainsbury’s -70%を少し上回るぐらい、約250種を取り扱い。最売れ筋商品を含めてバックラベルに明記。
Tesco -今のところ回答なし、かつウェブサイトにはヴィーガンの表記なし
Waitrose – 1221種中691種はヴィーガン対応可能でWaitrose Cellarのサイトとワインリストには記載があるもののラベル表記までは対応していない。

VeganWines.com はアメリカ初のヴィーガン専門店とのこと。

(原文)