ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

281-1.jpg別バージョンがフィナンシャルタイムズに掲載されている本記事と木曜日のbattle of the prestige cuvées ではイギリスのスパークリング・ワインがシャンパーニュの有名なものと比較して成し遂げた偉業を特集している。

「2009のクラシック・キュヴェより香り高いけれども、現時点でその違いは想定される価格の違いほどではないと思われる」これは謎の2009スパークリング・ワインを2016年5月、Nyetimber takes on Krug和訳)に書いたようにウェスト・サセックスにあるナイティンバー訪問時にテイスティングした際のコメントの一部だ。才能あふれるカナダ人夫婦、チェリー・スプリッグス(Cherie Spriggs)とブラッド・グレートリックス(Brad Greatrix)には言われていたのは、1990年代という早い時点でイギリスで最初にシャンパーニュをイメージして作られたイギリス最初のスパークリング・ワインの生産者、ナイティンバーからこの特別に豪華な最新のボトルがリリースされるのは早くても2016年後半だということだった。

しかしこのイベントで発表されたナイティンバーのプレステージ・キュヴェ1086の白とロゼはロンドンにあるリッツできらめく黄金、枝付きの燭台と深紅のバラ、そして広報担当によるゲストに囲まれ、それよりもほぼ2年も遅れてのお目見えだった。この遅延は恐らくナイティンバーの現在の所有者であるオランダ人のエリック・ヘーレマ(Eric Heerema)がこのワインの名称、パッケージ、そして価格を決めるのに相当時間をかけたからではないかと想像する。この名前は明らかにナイティンバーの地所(Nitimbreha)が初めて言及されたドゥームズデイ・ブックの日付にちなんでいる。

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そのパッケージは輝かしい紋章風のものでシャンパーニュ人に嫉妬を感じさせるものではないが、その小売り希望価格はそうでもなさそうだ。白で150ポンド、ロゼでは175ポンドという素晴らしい価格がつけられている。だが相対的な価格としては奇妙に思える。白の方がロゼよりも希少価値があり(ロゼが12000本生産されているのに対し2600本)、熟成も長い(ロゼは2010年、白は2009年)ためだが、こんな高価なものにとってそんなことは些細なことなのだろう。

今やイギリスのスパークリング・ワイン生産者たちは自分たちがシャンパーニュに引けを取らないワインを作ることができると知っているし、そのうち数人はシャンパーニュの価格と同等なものをつけられると証明することに情熱をかけているようだ。昨年チャペル・ダウンは最高級ボトルとして少量生産の製品、キッツ・コティ・クール・ド・キュヴェ(Kit’s Coty Coeur de Cuvée)を1本あたり100ポンドをわずかに下回る価格で発売している。そして今回ナイティンバーはそれを2つ実現した。

この1086のペアに付けられた価格は、これらが1本100ポンドから200ポンドで販売されている、最も有名ないわゆるプレステージ・シャンパーニュであるクリスタル、ドン・ペリニヨン、あるいはクリュッグなどを直接視野に入れていることを示す。それら同様1086も伝統的なシャンパーニュ品種、ピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・ムニエから作られている。そして同様に数十種類もの異なる原料を注意深くブレンドし、何年もの間(今回の2009白については6年、ロゼについては5年)ワインの泡を生み出す瓶内二次発酵の際に発生する澱の上で熟成させている。

おそらくナイティンバーのこれら野心的なワインをシャンパーニュで最も有名なプレステージ・キュヴェとどのように比較すべきか考えるのは軽率なことと言えるだろう。私は最近カリフォルニアのソノマ・コーストのブドウから作られるカルト・スパークリング・ワインであるウルトラマリンを作るマイケル・クルーズに会った。彼のワインは壮大で素晴らしく、シャンパーニュの最高の作り手たちによる競演ともいえるシャンパーニュ・ウィークで紹介するために招待されたほどだ。ところが、彼は私にこう言った。「私は実際には私のワインをシャンパーニュと同じぐらいによいと言ってくれる人には抵抗があります。私は彼らにそれらがカリフォルニアのどこで作られているのかきちんと言及してほしいのです。」

クルーズはグロワーズ・シャンパーニュのモデルをなぞっている一方、スプリッグスとグレートリッグスは568エーカー(230ヘクタール)もの石灰質土壌の畑をハンプシャーとケントに、さらには緑砂の畑をウェスト・サセックスに所有しているが、大きなシャンパーニュ・ハウスに近い手法を取り、90もの異なる区画のブドウから選択している。かれらは明らかに1086のためのブドウが、それらの畑で生産されたもの中でもこの上なく最高のものになるよう気を配ったであろうし、それらが比類なきイギリスの特徴を表現するものになっていくことは間違いない。気候(変動)のおかげでイギリスのワインはスパークリング・ワインの優れた特徴である天然の高い酸を保持する傾向にあり、それはシャンパーニュが年々温暖になる夏の結果失いつつあるものだ。

私のように興味を持つ向きには幸いなことに、ロンドン主体のオンライン・ショップでワインと二酸化炭素を組み合わせた最高の製品を扱い、シャンパーニュにとりつかれているザ・ファイネスト・バブルのニック・ベーカーは1086と同様な価格の付けられたプレステージ・キュヴェ・のシャンパーニュをどうやって比較すべきかを躍起になって考えていた。そこで彼は私と4名の経験の豊富なシャンパーニュ・テイスターを集めナイティンバーのペアと同価格帯で販売されている白とロゼのシャンパーニュのブラインド・テイスティングを企画した。

この上なく飲みごたえのある1086ロゼはテタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ2006、ビルカール・サルモン・エリザベス・サルモン・ロゼ2006とは容易に区別がついたが、白の方は酸が最も高いワインであるはずにもかかわらず、それほど明確ではなかった。ナイティンバー・ブリュットを言い当てられた参加者は一人もいなかった。

白のテイスティングで最も私が気に入ったのはドン・ペリニヨン2009で、いちばん好きではなかったのはフィリポナの単一畑、クロ・デ・ゴワセ2009だった(私は先月はるかに美味しいクロ・デ・ゴワセを楽しんでいた。ボトル差は多くの一般人が想像するよりはるかに大きいのだ)。

ナイティンバー1086白は結局、シャンパーニュ・ハウスが作りうる最高のワインをテイスティングしたグループでは3番目に好きなものだったが、この中に肩を並べられるようになったという点で小さなイギリスの島国人としては素晴らしい進歩だ。どちらの1086も明らかに非常に良いワインだったし、私がこれまで出会ってきたどのイギリスのスパークリングよりもずっと品質が良かった。

それから正確を期するために書いておくと、ナイティンバーのクラシック・キュヴェ、すなわち彼らの一般的なボトルは1本30ポンドを切る。現在のバージョンはヴィンテージ表記のものではなく(これもシャンパーニュ・ハウスを意識して)ノン・ヴィンテージだが、ものすごく良い。クリュッグがそうするように、ナイティンバーも各キュヴェがどう作られているか詳細な情報を提供するため、ワインオタクたちをウェブサイトまで誘導する仕組みを備えている。

これほどの品種を追及する原動力と資金源はヘーレマによるものだ。そしてその技術はカナダ人のものだ。先月チェリー・スプリッグスはシャンパーニュ人以外で初めて、そして女性としても初めて、インターナショナル・ワイン・チャレンジ・アワードにてスパークリング・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに輝いた。どちらも生物学者でワインメーカーに転身したスプリッグスとグレートリッグスがナイティンバーにやってきたのはヘーレマ(その前年にナイティンバーを買収していた)に電話をし、仕事をさせてほしいと話したわずか2週間後、2007年のことだ。この挑戦に魅了され、ワールド・アトラス・オブ・ワインで写真を見た以外に何のつてもないまま、彼らは数えきれないほど細かなレベルでの繊細なチューニングを行う手法を確立したのだ。(Nyetimber – a Canadian playground参照のこと).

スプリッグスとグレートリッグスがまだ責任者であることを考慮すると、我々はさらにすごいものがナイティンバーから出てくることを期待できるだろう。もちろんイギリスで急速に増え続けている他のワイナリーでも、野心的な価格を付けるべく眠っているワインがあることも疑う余地はないのだが。

勝利を収めたスパークリング・ワイン

Arcari + Danesi, イタリア、フランチャコルタ
Arras, オーストラリア
Cave Geisse, ブラジル
Domaine des Dieux, Claudia, 南アフリカ
Nyetimber 1086, イギリス
Raventós i Blanc, カタルーニャ
Ultramarine, カリフォルニア、ソノマ・コースト

在庫のある小売店はwine-searcher.comで、テイステンィグ・ノートはデータベースを参照のこと。

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