Image, and figures for the sale of Chateau Junding, courtesy of Decanter.com
中国の現実に光を当てたこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートはChinese wine – some of the best を参照のこと。
中国東部にある山東省のシャトー君頂(上写真)で埃っぽい洞窟のようなセラーを歩いていて強く印象的だったのは、ある意味そこが中国ワインにここ数年起こっていることを象徴しているようだったからだ。
中国の熱烈なワイン・ブームの間、ホテル、ゴルフコースからなるこの複合施設は400haのブドウ畑と村と呼べるほど多くの建物が織りなす水の帝国とでも形容できる建築様式の巨大なワイナリーで、国営の中糧集団有限公司自慢のワイナリーだった。セラーに向かう途中、イーゼルに飾ってある多くの酔っぱらった中国のビジネスマンや役人の写真が収められている額からも、シャトー君頂のディレクターはワイナリーとそれに付随するダイニング・ルームをもてなしの場として重用していたことがわかる。
そこに2012年、習近平による「贈り物」取り締まりと公的な、あるいは同僚との深酒を禁止する方針が打ち出された。その結果、2016年にシャトー君頂のすでに廃墟のような、現在のようにみすぼらしい殿堂はたった1人民元で売りに出されることとなった。推定される負債は39,200万人民元(当時のレートで4,200万ポンド)とされた。
驚いたことに、彼らはそれを現代芸術が本業であるワン・イーハンに売却することができた。中国最大のアート・フェアの責任者でもある彼女はこの巨大なワインとおもてなしの空間の経営を持て余しているように見えたが、自分がこれを購入したのは単に夫が近くの煙台出身だったからなのだと話してくれた。我々は大広間にある深紅のサテンがかけられた優に24人は着席できるような丸テーブルで昼食をとったが、それは普通の円卓にはあまりに大きすぎるものだったため、その代わりにおよそ2ダースもの皿が次から次へと数分おきに出たり引っ込んだりすることになった。
私が定期的にワイン発掘を目的に中国を訪れるようになって3年経つが、ワイン・ブームの終焉を明白に感じざるを得ない。ワインを口にするのは近代的で都会的な中国の暮らしの社会的な象徴であり、明確に西洋のスタイルを取り入れたものだ。そのため古来の白酒や、驚くべき乾杯文化などとは全く異なる。前回訪問した上海では売れ残りの過剰に高値のついたボルドーの格付けワインが倉庫に山積みになっているといううわさはあったものの、新しいワイン・バーや取集化のためのサロンがあちこちでオープンしている状態だった。
統計によると中国はどこからともなく現れた世界最大のワイン消費国であり、世界2番目に重要なブドウ生産国であり、世界で最も重要なワイン生産国の一つとされていた。当時すべてが順調に進んでいるように見えていた。
だが現在、不安定な経済状況の中で事情は明らかに違ってきており、中国のワイン生産者たちは進路の変更を余儀なくされることに慣れざるを得ない状況のようだ。マンチェスター・ユナイテッドのサポーターがサー・アレックス・ファーガソン辞任時にそうであったように。
先月上海で開催された中国ワイン・サミットで、ワインのウェブサイトTasteSpiritが主催した主要なワイン生産者の集会で中国酒類流通協会副総書記(実質的にはワイン委員会のトップ)のZuming Wangは容赦なかった。「私たちは世界で5番目に大きなワイン生産国であると思っていますし、世界もそうだと思っています。でもそれは違います。内部統計は誤解を招く恐れがあります。通関統計の方がより正確で、輸入は昨年10%減少したとなっています。」彼はさらに中国の大手企業がワインで金儲けをすることが当初の予想よりはるかに難しいことに気づき、撤退を始めていることも警告した。
国有の投資会社CITICはもはや、中国のお気に入りの1級シャトー、ラフィットが開始した山東省での新しいベンチャー事業には関わっていない。多くの中国のインポータは最近過密になった市場からの撤退を初め、かなり用心深くなっている。ここ何年もの間中国人に不可欠だったボルドーのワインよりも、狡猾な交渉の成果である自由貿易協定のおかげで、はるかに価格の安いオーストラリアとチリが中国への主要な輸出国としてフランスに迫っている。(ブルゴーニュは現在大流行しており、その生産量が限られていることもあり、中国人による需要はブルゴーニュの価格高騰にかなりの影響を与えている)。
統計学者からワイン・ライターに転身したフランス人のベルナール・バーツシー(Bernard Burtschy)は中国ワイン・サミットでのプレゼンテーションで、自身のスキルのすべてを用いこの捉えどころのない事実を明らかにした。彼によると、中国のブドウ畑の内たった10%程度しかワイン生産には使われておらず、多くが生食用に用いられているというのだ。彼が正しければ、中国のワイン用ブドウ畑の総面積は世界2位ではなく20番目程度ということになる。
彼はさらに(ほぼモンスーンとは言わないまでも)雨が多く平均で135 hl/haも生産する山東省と、危険なまでに乾燥し、彼の計算によるとほぼ経営が成り立たない16 hl/haの寧夏や25 hl/haの新彊との間の平均収量の劇的な違いについても調査していた。彼の試算では国としての平均収量もまだかなり高く96 hl/haほどだが、それでも中国の年間ワイン生産量は平均的な年でもたった840 hlであり、ドイツや南アフリカのそれよりも少ない(そしてこの4年で国内需要が衰退したためさらに減少している)。
バーツシーは参加した生産者たちに水資源の確保と、彼の試算ではブドウが枯死するほど寒い多くの中国のワイン産地で毎年行わなくてはならないブドウを土に埋め、春に掘り起こす作業によって世界の平均の2倍となっている生産コストの削減に取り組むべきだと強く述べた。
これが量的な縮小の概要だ。では中国ワインの品質はどうだろうか?中国で偽のボルドーの販売業者が複数起訴されたのはよく知られているものの、市場にはまだまだ信頼できないワインが、特に最も安い価格帯に多く見られる。しかも多くのワイン生産者が拠点とする煙台は安いワインを大量に輸入している。
中国への8回の訪問では毎回、信頼できる筋から入手可能な限り最高のワインをテイスティングするよう努めてきた。まずまずのワインを作る生産者の数はゆっくりだが着実に増えてきているものの、その信頼できる筋がしっかりと荒波から守ってくれなかったとすれば、フランスの17倍の面積である国から作られるその数は非常に少ないと言えよう。
そして、非常に多くのワインがカベルネ・ソーヴィニヨン主体のもので、バーツシーの計算では中国のブドウの63%を占める。メルロとカルムネール(中国人がカベルネ・ガーニッシュ(Cabernet Gernischt)と呼ぶボルドー品種のひとつ)も人気があり、最近交配されたカベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュから作られたマルスランも流行している。(中国での経験も豊富なブドウ栽培研究者のリチャード・スマートこの記事を読んでこうコメントを寄せた「マルスランをしばらく観察してみましたが、河北と、最近では寧夏でも非常にうまくいっています。中国を代表する品種になるかもしれません。しかし幹の病気に非常に弱く、おそらくソーヴィニヨン・ブランよりも脆弱と思われます。中国では幹の病気が深刻です。病気が認知されておらず対策も取られていないために地元や海外の苗木商によってどんどん広められていますし、湿った土の中に埋めるという作業も原因と考えられます。」)
数少ない白ブドウはシャルドネとイタリアのリースリングだが、その幅は広がってきており、モンゴル内陸部でヴィダルで作られた甘口ワインや、北京近郊で作られたプティ・マンサンなどもある。私は受賞歴のある寧夏の賀蘭晴雪の(女性)ワインメーカーの作った納得のいくピノ・ノワールにも出会った。
中国のワインは最終的にはうまくいくだろうが、かつて私たちが想像していたほど早くはなさそうだ。
写真とシャトー・君頂販売に関する数値はDecanter.comの提供。
優れた中国のワイン生産者
以下の生産者はなかなか上質なワインを作っているが、彼らの作る全てのワインの品質を保証できるわけではない。よい例は中国同様香港でも入手可能だが、それより遠くに輸出されているものは少ない。例外はボルドーのワイン商が取り扱っているChangyu Moser XVと Ao Yunだ。
Ao Yun, 雲南 (LVMH)
Ch Bolongbao, 北京
Canaan, 河北
Chandon, 寧夏 (LVMH)
Ch Changyu Moser XV, 寧夏
Ch SunGod, 河北
Dom Franco-Chinois, 河北
Grace Vineyard, 山西および寧夏
Guoan, 新疆
Helan Qingxue, 寧夏
Helanshan Manor, 寧夏
Huailai Amethyst Manor, 河北
Kanaan, 寧夏
Ch Martin, 河北
Silver Heights, 寧夏
(原文)