最近テイスティングしたロゼ・シャンパーニュから、今では生産者も消費者もこのカテゴリーを非常に真剣に受け止めていることが伺い知れる。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。
マダム・リリー・ボランジェは写真で自転車に乗っている女性で、シャンパーニュをいつ飲むべきかという問いにこれ以上にない名言(いつも、という答えだが非常に巧みな表現)を残した人物だが、ハウスでロゼのシャンパーニュを作ることにはかたくなに反対していた。彼女はそれをパリの売春宿と疑われていた施設と結び付け、そこで働く悪名高い女性にだけふさわしい飲み物であると考えていたのだ。
彼女は1971年までボランジェの経営に携わり、1977年に没した。初めてのボランジェ・ロゼはヴィンテージ・ワインであるグランダネとして、暑かった1976年に作られ、1980年代半ばに発売された。ノン・ヴィンテージのボランジェ・ロゼが日の目を見たのやようやく2008年になってからのことだ。
だがほとんどのシャンパーニュ・ハウスは長きにわたりロゼをそのラインナップに加えており、現在ではシャンパーニュの生産の約10%を占めている。かつてロゼは、一握りの例外を除きある種品質を問わない半端ものとみなされていた。それが大きく変わったのは、おそらくスティルのロゼ・ワインの世界的な流行と、気温が高くなり続ける夏のおかげで欠かせない品種の中で黒ブドウであるピノの品質が向上したこと、あるいは単純にシェフ・ド・カーヴが第二の矢として重視するようになったことなどが考えらえる。
シャンパーニュ愛好家たちはこのアップグレードに気づいている。ドミニク・ドゥマルヴィル(Dominique Demarvill)が6月、まだヴーヴ・クリコに所属していた際に話したのは「ロゼは今や流行以上のものです。人々は10年、15年以上前に比べてはるかに、ロゼのシャンパーニュを本格的なシャンパーニュとみなしています。特にロゼが好きだという多くの愛好家がいますし、中には特に熟成した古いロゼをあえて探す収集家もいます。」
正直なところ、本当によく熟成したヴィンテージの、最高のシャンパーニュ、ロデレール・クリスタルとドン・ペリニヨンの白とロゼ両方をテイスティングする幸運な機会があった際に長く記憶に残ったのはロゼの方だった。クリスタル・ヴィノテーク・ロゼ1995やドン・ペリニヨン・ロゼ1990や1995などのような比類ないワインたちだ。ロゼ・シャンパーニュのテイスティング・ノートやMr Dom Pérignon’s life in bottlesも参照のこと。
これらはどちらも常に細心の注意を払って作られるロゼのプレステージ・キュヴェだ。シャンパーニュの色をピンクにする一般的な方法は非常に重要な瓶内二次発酵の前にブレンドを行った白ワインにほんの僅かに赤ワインを加える方法だ。さらに労力を要する方法はスティルのロゼを作るように色を付ける方法、すなわち果皮に色のついているピノ品種を白ワインのマストにわずかな時間漬け込むことだ。今年の末にドゥマルヴィルはロゼをこのマセレーション法で作るハウスとして最も知られているローラン・ペリエに移る。
比較的容易なブレンドの手法を取っているハウスの中には、マセレーション方式で作るロゼ・シャンパーニュについてピノ品種の果皮の影響でタンニンが強すぎると非難する向きもある。そしてそれは確かに、ローラン・ペリエの現在流通しているノン・ヴィンテージ・ロゼについては当てはまると言える。これは2013年に収穫したブドウを主体とし、1年前にデゴルジュしたもので、キュヴェ・アレクサンドル2004と同様、余韻に若干の固さを感じる。だがこのわずかな固さは決して過剰なものではなく、このワインを料理と共に楽しむにふさわしいものとしていることは間違いない。(シャンパーニュは幅広い料理に合わせることの可能な偉大なワインでもある。ほかにあまりに多くのワインの選択肢があるためにシャンパーニュをアペリティフのカテゴリーに入れてしまっているだけに過ぎない)
もう一つのロゼ・シャンパーニュで、マセレーションを使った新しいものと言えばロデレールの溌溂とした、やや還元的なスタルク・ブリュット・ナチュール・ロゼ2012であり、これはそのデビュー・ヴィンテージだが、2015も作られており、2018は来月発売予定だ。ナチュラル・ワインのファンであるデザイナー、フィリップ・スタルク(Philippe Starck)とロデレールの才能あふれるシャンパーニュの魔術師、ジャン・バティスト・レカイヨン(Jean-Baptiste Lécaillon)のコラボレーションであり、後者は最近ランスで、やや厳しい表情を見せていたスタルク・ブリュット・ナチュール2012と同じブレンドであり、そこにほんの少しキュミエール産のピノをブレンドしていると話していた。このピンク色をしたバージョンの方が果実味が加わっており、やや厳格な白のバージョンよりもバランスが良いように感じられた。
ドゥマルヴィルがあとを引き継ぐローラン・ペリエのミッシェル フォコネ(Michel Fauconne)は、ロゼを作る際に彼が注目するのは色ではなくその香りだと話していたが、もちろん色も重要な要素だと考えており、それが変化しているのだと述べた。クリュッグが1980年代にその最も豪華なシャンパーニュのロゼ・バージョンを発売した際にはその家路はこの上なく淡いサーモン・ピンクだった。そのため非常に色の薄いロゼ・シャンパーニュのブームが訪れ、それはもはや視覚的にも味わいの面でも白と区別できないものすらあった。プロヴァンスのスティル・ワインのロゼに似た色合いとでも言えようか。
ところが、ここ数年で私が感じているのは、ピンク色をしたシャンパーニュの色が目で見てわかるほど濃くなっていることで、その色合いも多様になっている点だ。この上なく尊敬を集めるレア(元パイパー、およびシャルル・エドシック)のワインメーカー、レジス・カミュ(Régis Camus)が語ったところによると「色は非常に繊細な問題です。なぜならまず目に入るものだから。かつてその色は不安定でしたしね」彼の2007ロゼはトマトのような色合いがみられるものの、カミュはランスの大聖堂に差し込む光のような青みを帯びた色調を追い求めているのだと話した。
他の多くのシャンパーニュ・ブレンダー同様彼も、シャンパーニュ地方のかなり南部、オーブ県にあるレ・リセ村のピノ・ノワールを追い求めている。そのピノはスティル・ワインでアペレーションを取得していることでも有名なものだ。このベテラン・シェフ・ド・カーヴにとって「リセは色が長持ちするブドウの唯一の供給源」なのだそうだ。花のように香る2007はレア・ロゼのデビュー・ヴィンテージだ(レアは比較的最近パイパー・エドシックから派生したプレステージのみのブランド)。6月にリリースされた2008はピュアで一筋のミネラルを感じる非常に繊細なものだ。そして色も薄い。
ロゼ・シャンパーニュを(マセレーション法に反対し)ブレンドで作る人々の場合は、どれほどの量の赤ワインをブレンドするかがそれぞれ非常に大きく異なる。ドゥマルヴィルはヴーヴ・クリコ・ロゼ・ヴィンテージ2008と、ハウス・プレステージ・キュヴェであるラ・グラン・ダームの2008版の両方とも、14%もの赤をブレンドしている(後者の方がピノ・ノワールの供給が賢明な場所からだ)。赤ワインの影響は非常に強く、アペロールのように濃いオレンジの外観をもたらし、(これは自己暗示によるものではないと思いたいが)味わいも余韻にその苦みに似たものを感じた。
対照的なのがフィリッポナのクロ・デ・ゴワセ・ジャスト・ロゼ2008で、私がこれまで目にした中でも最も色の薄いシャンパーニュであり、マルイユ・シュル・アイにある石垣に囲まれた著名な急斜面の畑からとれるブドウを使っている。シャルル・フィリポナによれば「熟成が永遠に可能になるよう、色を淡くしているのです」とのことだった。.
息をのむようなロゼ
まだまだ、素晴らしい価格のついた素晴らしいワインが存在する。Rosé champagnes – the tasting notesを参照のこと。
Bérêche, Campania Remensis Extra Brut 2014
£70 Huntsworth Wine, London W8
Billecart-Salmon, Cuvée Elisabeth Salmon 2007
£149 Uncorked, London EC2
Bollinger, Grande Année 2007
£97.09 The DrinkShop, Kent
Leclerc Briant NV
£55 Berry Bros & Rudd
A R Lenoble, Terroirs Chouilly-Bisseuil NV
€47.90 Vinos Dulces, Barcelona
Philipponnat, Cuvée 1522 2008
£375 for six in bond Justerini & Brooks
Louis Roederer 2013
£55 Berry Bros & Rudd
Veuve Clicquot 2008
£57.50 Four Walls Wine, Sussex
上記以外の取り扱い業者についてはWine-Searcher.comを。これらワインの感想についてはテイスティング・ノートのデータベースを参照のこと。
(原文)