ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

360.jpgPhoto taken off the Croatian coast by Inera Isovic on Unsplash.

皆さんもそろそろ現実逃避をしたくなる頃ではないだろうか?この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。

いつもなら今頃夏の休暇の計画を立てている時期のはずだが、よほど勇気があるか、よほど楽観的か、ワクチンの接種を受けた人でない限り、コロナがこれほど蔓延している現状でフライトやホテルの予約に大枚をはたく人はいないだろう。

そこで、思い出を呼び起こすものや妄想を刺激するようなワインを選んで疑似旅行をするというのはどうだろうか。

プロヴァンス


ラベンダー。タイム。カサマツ。キラキラと光る地中海。リュベロンに響くセミの声。霞みのかかったサント・ヴィクトワール山の石灰の岩肌。伝わっただろうか。これらを液体で表現しているのはどんなワインだろう?

言うまでもなく、これほどまでに世界がロゼ一色の時代なのだから当然プロヴァンスのロゼ、特にその特徴をよく示したものであるべきだろう。ドメーヌ・タンピエのバンドール・ロゼはクラシックな選択であり、多くのロゼが翌ヴィンテージの発酵を終えるころにはピークを過ぎているのに対し、瓶内で何年も熟成が可能なワインだ。

また俳優のイドリス・エルバが自身のブランドであるポルテ・ノワールに選んだ、イエールの海岸にあるシャトー・サンテ・マルグリートのロゼは出色だ。パッケージに工夫を凝らすのがプロヴァンスのロゼの流行だが(うれしいことにタンピエは標準的なボルドータイプのボトルだ)、変わった形の透明なボトルは他の例に比べて品よくまとまっている。デカンター・ワールド・ワイン・アワードでは2019が最優秀賞に選ばれた。

ザ・ハンプトンズ

ローヴス&フィッシュズ(Loaves & Fishes)、ニック&トニズ(Nick & Toni’s)、何マイルにもおよぶ白浜に打ち付ける大西洋の波、そして渋滞。

ニューヨーカーたちは自分たちの州で作られているワインを無視しがちだが、最近はそうも言っていられなくなってきたのではないだろうか。今やロングアイランドのイーストエンドは世界で最もクリエイティブなワイン(とシードル)の産地で、チャニング・ドーターズやマッコール、マカリ、フローラル・テレーンズと言った生産者たちが既成概念の枠を超え始めている。中でもパーマノックはほとんど輸出されていないものの、非常に信頼がおける。

トスカーナ


糸杉、オリーブの木立、緩やかな丘を埋め尽くすブドウ。ペコリーノ、プロシュート、パンツァネッラ。パンツァーノのみならず世界を見渡しても最もきらびやかな肉屋、ダリオ・ケッチーニ。

トスカーナのワインがその真価を発揮するのはテーブルの上、特に肉と一緒の場合だ。この美しい地域を象徴する品種、サンジョヴェーゼ特有の明確に感じられるタンニンと刺激がぴったりと合う。キャンティ・クラシコが本領を発揮しているのを目にするのは心が躍るものだ。サンジョヴェーゼ主体のワインとして最近まで最も知名度の高かったブルネッロ・ディ・モンタルチーノと同じぐらい注目に値するワインが、本格的で長期熟成のポテンシャルを持つワインとして広く認められるようになったのだから。

キャンティ・クラシコの地域のほとんどはモンタルチーノよりも冷涼で、夏の気温が高くなってきた今の時代には有利だ。トスカーナのワインとしてどちらも有名な両社はメルローやカベルネ・ソーヴィニョンなどフランス系品種をブレンドして肉付きをよくし、1990年代にもてはやされ国際的評価も(過剰に)高かったワインとは一線を画し、サンジョヴェーゼ一筋だ。

最近ではサンジョヴェーゼ主体の赤は穏やかなトスカーナの7月や8月よりも北半球の冬のほうがあっているのではないかという議論もある。その場合、やや冷やし目で、暖かい日には14℃程度、冬なら16℃程度で提供するとリボッリータのような濃厚なスープやシチュー、あるいはクラシックなビステッカ・アッラ・フィオレンティーナなどと好相性だろう。

キャンティ・クラシコの地域のほとんどではオリーブオイルも生産している。これはトスカーナで休日を楽しむ際に必須のもう一つの重要な要素であり、ワインよりも使い勝手がいいことも間違いない。

ギリシャ

紺碧の水、まばゆく白い壁、新鮮な魚、小さな教会、ワイルドハーブ、トマト、たくさんの花とタラモサラダ。

ギリシャのワインは思っているよりもはるかに良いものだ。実際、私は次に注目すべき産地がどこかと頻繁に質問を受けるのだが、いつも私はギリシャとポルトガルを挙げている。理由はどちらにも共通するが、あらゆる色、スタイルのワインに使える綺羅星のような固有品種に溢れていることだ。

パワフルなミネラルと柑橘に象徴される、火山島サントリーニを代表するアシルティコは今や広く認知されオーストラリアでも栽培されているほどだ。他の国でも栽培されるようになるのも時間の問題だろう。ダフニ、キドニツァ、マラグジア、ロボラ、ヴィディアノなどは独特な白ワインを生み出し、リアティコ、リムニオ、ニムニョナ、モスコマヴロなどはギリシャの赤ワインの名声を高めた。はるかに栽培面積の広いクシノマヴロは近代的な品種で、印象的なほど透明感の高い、長期熟成が可能な赤ワインとなる。

コーンウォール


新鮮な空気、釣り船、洞窟、崖、パスティ、打ち寄せる波、黄金の砂、クロテッド・クリーム、高い生垣、狭い道。

コーンウォールはワインというより錫鉱で有名だが、パドストウのレストランは言うまでもなく、エデン・プロジェクトやティンタジェル城、セント・アイヴスなどの観光地を補うに十分なブやドウ畑が広がる場所だ。多くの賞を受賞したキャメル・ヴァレーが最も有名な生産者だが、ナイター(Knightor)やトレヴィッバン・ミル(Trevibban Mill)なども注目に値する。彼らのワインはイギリスのワイン愛好家にとってイギリスのブレグジットに絡む官僚主義を思い起こすことなく楽しめるワインだ。

パリ

 

ああ、光の都!そしてカフェテラス。機動隊もバリケードも、板が打ち付けられた店もない頃の広いシャンゼリゼ通り。

かつてのパリのビストロやブラッセリーのように、人々がぎゅうぎゅうに座って食事を楽しむことができる日が来るのか、パリのレストラン経済は、そしてレストランそのものはこのパンデミックを乗り切れるのか、考えずにはいられない。

だが夢を見ることは可能だろう。この記事の目的は1,2本のワインを紹介してそんな夢を見る手助けをすることだ。パリ旅行を象徴するようなワインと言えば、パリ北東部に点在するワインバーが得意とする個性的な掘り出し物だ。亜硫酸無添加でスキンコンタクトを行ったサヴォワなんて最高だろう(下記のおすすめリスト参照のこと)。

クロアチア


この上なく透明な水(上の写真)、700以上もの島、ヴェネチア建築、網目のように走る道、燻したサバとブリトヴァ、スピードボートにヨット、心に染み入る夕焼け。

クロアチアには固有のブドウとワインがある。イストラではマルヴァジアがリンゴとハチミツの風味がして骨太な辛口の白ワインの原料として重要な役割を果たす。南に行くとブドウの品種名もさらに独特だ。ディンガッチュ、バビッチ、ボグダヌシャ、クッチュ、マラスティナ、ポシップ、グルクなど。そしてもちろん、カリフォルニアのジンファンデル、プーリアのプリミティーヴォのおじいさんにあたる、ツェリニナック・カシュテランスキや、それに近い品種でクロアチアの主要な赤ワイン品種であるプラヴァッツ・マリなども挙げておこう。

アメリカではナパ・ヴァレーにあるガーギッチ・ヒルズのマイク・ガーギッチがクロアチア出身のワインメーカーとして有名だが、イギリスにはマスター・オブ・ワインのジョー・アハーンがフバル島で「ワインの魔法を」存分に発揮している。

ワインがあなたの魔法の絨毯となりますように。

ワインまとめ

Dom Tempier Bandol Rosé 2019, 2018

Ch Ste-Marguerite, Porte Noire Rosé 2019 Côtes de Provence

Channing Daughters, Scuttlehole Chardonnay 2018 Long Island

Il Fabbri, Lamole 2018 Chianti Classico

Casa Emma, Vignalparco Riserva 2016 Chianti Classico

Fontodi, Vigna del Sorbo Gran Selezione 2016 Chianti Classico

Diamantis Moschomavro 2018 Siatista

Chatzivaritis, Ni 2018 Slopes of Paiko

Camel Valley, Pinot Noir Rosé 2018 England (still, not sparkling)

Claude Quenard et Fils, Sansoufrir Blanc 2019 Vin de France

Ahearne, Wild Skins 2017 Hvar

国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

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