ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

364.jpg気に入ったワインがあるのに、どこで買えばいいのか?ブレグジットのおかげで買える場所がみつからない。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。該当するワインのテイスティング・ノートはMore bordeaux 2018sを参照のこと。

ボルドーのワイン業界は独自の販売システムであるラ・プラース・ドゥ・ボルドーを誇りとしている。各シャトーがブローカーを経由して世界中のネゴシアン(ワイン商)にワインを販売するため、何世紀にもわたり進化を繰り返してきたシステムだ。

このシステムは当然のことながら、販売網に乗る過程でシャトー価格に多少の手数料が乗せられることになるが、シャトーの所有者はインポータ、卸売業者、そして小売店と個別に対応することなく、効果的な販売網にワインを乗せるという利益を享受している。その仕組みがあまりに効率的なため、チリやナパ・ヴァレーなど遥か彼方の生産地の高級ワインまでもが現在はラ・プラース・ドゥ・ボルドーを経由して販売されるほどだ。すなわち、ワイナリー所有者とネゴシアンどちらにとっても都合がよいということだ。これらボルドー以外のワインの取り扱いは9月に行われる。ラ・プラースの主業務は4月から6月までの間、できあがって数カ月しか経っていない最新ヴィンテージのボルドーをテイスティング、評価、値付けし、そして販売するいわゆるプリムールであるためだ。

この仕組みはほとんどの有名なボルドー、すなわち1855年にまでさかのぼるあの有名な格付けでクリュ・クラッセを名乗るシャトーにとっては非常にうまく機能する。一方で、ボルドーワインの詳細を記したバイブルでもあるフェレ(Féret)には1万件ものシャトーと関連するブランドが掲載されている。裏を返せばボルドーの無名シャトーのワインは世界で最も費用対効果の高いワインである可能性があるということだ。だが彼らにとって他と差別化できるほどの個性を確立し、長期的な戦略を立てることは非常に難しい。

右岸で著名なアペラシオンと言えばサンテミリオンとポムロールだが、シャトーの所有者から醸造コンサルタントに転身したアラン・レイノーはその地で2002年に「右岸共同体(Cercle Rive Droite)」を立ち上げた。当初の目的はジロンド川の右岸にある多くの小さなワイナリーを応援することだった。緻密に計画されたテイスティングは次第にクリュ・クラッセをテイスティングする春の狂騒曲、すなわちプリムールと共に、ボルドーの風物詩となっていった。

2017年、それは同じような、しかしさらに知名度の低い左岸のメドック、グラーヴ、ソーテルヌにあるシャトーによる「左岸共同体(Cercle Rive Gauche)」と統合し、グラン・セルクル・デ・ヴァン・ド・ボルドー(Grand Cercle des Vins de Bordeaux)となり、現在136もの加盟シャトーを抱えている。

彼らよりも名のあるクリュ・クラッセはユニオン・デ・グランクリュ・ド・ボルドーとして知られる、この上なく有力なプロモーション団体による大きな恩恵を受けている。彼らは世界中でテイスティングを行い、さらには昨年10月にはロンドンの2回のロックダウンの合間を縫うという素晴らしい幸運にも恵まれ、最新のヴィンテージである2018が瓶詰めされる直前に着席スタイルで業界向け試飲会の開催にもこぎつけたのである。

何十年も熟成が可能なボルドーの赤ワインのテイスティングは、プリムールでカスク・サンプルを試飲するよりもはるかに満足のいくものだったが、クリュ・クラッセ以下の2018ヴィンテージをテイスティングするにはパンデミックの状況下では時間が足りなかった。

クリュ・ブルジョワ(すべて左岸)のプロモーションに関わる団体からは、マスター・オブ・ワインでボルドー在住のジェイムズ・ローサー(James Lawther)あてに136種のワインが送りつけられた。彼は昨年12月にJancisRobinson.com の代表としてそれらを自宅でテイスティングしてくれた。また先月にはついに大型トラックが私の住所を嗅ぎつけ、グラン・セルクル・デ・ヴァン・ド・ボルドーから1パレット(そう、まさにあの輸送用のパレットだ)もの2018のワインが到着し、早速私はその105本のワインをテイスティングした。

正直に告白すると、かつては「右岸共同体」のワインのテイスティングは必ずしも楽しいものではなかった。あまりに多くのワインメーカーが、特にサンテミリオンでは、私が「模倣品」と呼ぶ、アルコールと甘さ、そして凝縮感と樽に支配されたワインを作っていたためだ。

だが近年ではそれらのスタイルはあまり見られなくなってきた。最近のテイスティングでは右岸の偉大さを見せつけるバランスの取れたワインをテイスティングするにつれ、心が躍った。右岸でのワインはメルロー主体で、カベルネ・フランがそれを補うスタイルだが、芳醇かつフレッシュで、畑の特性がアルコール度数を十分に凌駕したワインが多かった。2018は非常に暑く乾燥した年だったため、強いワインが出来上がるのは無理もないはずだが、こちら和訳)で書いたようにアルコールが高くてもかつてほど不快に感じることははるかに少なくなった。

さらに非常にうれしく思ったのは、カスティヨン・コート・ド・ボルドー、モンターニュ・サンテミリオン、ラランド・ド・ポムロール、フロンサックなど無名な右岸のアペラシオンのワインの中から素晴らしいワインを発掘できたことだ。実際のところ、それらのワイン36本に20点満点中16.5点をつけたほどで、まさにお買い得と言うしかない(右岸で16.5点以上をつけたのは30本、左岸では6本しかない)。

ところが、これら36本のワインを買いに出ようとすると、途端に不満が高まった。私がまず確認するのは卓越した国際的な価格比較サイトWine-Searcher.comだ。目的の36本のうち、5本はどの市場でも入手できないようだった。また、当然のことながらフランスでしか入手できないものもあり、総合的に見て流通が充実しているのはフランス、ベルギー、スイスぐらいだと言うこともわかった。

それらのうち6本は大手のボルドーのネゴシアンの小売部門、ミレジマ(Millésima)が取扱業社とされていた。ところがイギリスからの注文は「ブレグジットに関わって導入される新たな規則に準拠した流通手段を再構築中です。配送が再開次第ご連絡いたします。それまではお客様のご注文はフランスにある弊社の安全なセラーにて保管させていただきます。」と表示されてしまう。

ミレジマUKのセールスおよびマーケティング責任者、ホーテンス・バーナード(Hortense Bernard)はメールで次のように説明した。「ブレグジットの影響でイギリス国内でも様々な変更がありました。私たちもそれらに随時対応中で、完ぺきな解決策に至っていないのです。そのためこの件についてコメントすることはできません。ご存じの通り、ボルドーから個人の顧客向けにワインを配送することは決して簡単なことではないのです」。彼女のコメントはイギリスのインポータの間では広く報告されている、追加申請資料の準備に関わる遅れとコストにもよく表れている。

私は気に入ったグラン・セルクル2018をイギリス国内で入手できないかさらに探してみたが、レイスウェイトではヴィンテージ違いを見つけられただけで、他に手掛かりはなかった。そのほかには2ケースだけ扱っていたもの(ジェロボアムの扱うフェティ・クリネ)、6本入りを16ケースだけ扱っているもの(新しい企業であるワーウィック・バンズ&ジェンキンスの扱うフルール・カルディナル)もあったが、後者はまだワインがボルドーにあり、当分の間届くことはないそうだ。

入手性という意味ではアメリカのほうがましのようだ。アメリカのワイン商たちは高級ワインでもケースではなくボトルで販売することに抵抗が少ない。たとえばフロンサックの大きなワイナリー、ラ・ヴィエイユ・キュール(La Vieille Cure; かつてのオーナーはアメリカ人だった)なら、アメリカの複数の小売店で入手が可能だ。一方でイギリスでは唯一、ワイン商であるクリュ・ワールド・ワインだけが取り扱っているものの、実際に品物が届くのは2021年の秋以降、つまり2018ヴィンテージが最初にイギリスに到着した時期から丸々1年たってからというのである。

イギリスのワイン商の中には2018のワインを保税価格で提供するものもあるが、36件のうち2件以外は現在実質的に購入はできない。その2件はどちらもヴィエイユ・ヴィーニュのもので、一つはコーンウォールにある村の小売店が扱うフェゾー(Faizeau)、もう一つはザ・グレート・ワインCoと、複数のアメリカの小売店が扱うボルドー・シュペリウールのサンテ・マリー(Sainte-Marie)だ。これらはどちらも素晴らしく美味しく飲み頃で、お買い得品と言える。

私は彼らのワインがいかに入手しづらいかとレイノー博士に訴えたが、彼は加盟ワイナリーの中には知名度が低く国際市場で簡単に売れないものがあることを認めた上で、「だからあなたのような人にテイスティングしてもらうことが重要なんです。」と話した。

ただ、私としては4月のプリムール同様、シャトーの所有者のためにスコアを提供するのではなく、読者の皆様に向けて忌憚のない情報を提供したいと考えている。

お気に入りの2018 赤のシャトー

イギリスで入手可能なもの

de la Dauphine, Fronsac
£240 per case of 12 Millésima UK

Faizeau, Vieilles Vignes, Montagne-St-Émilion
£18.99 Drink Finder (aka Constantine Stores, Cornwall)

Feytit-Clinet, Pomerol
From £295 per case of 6 ib Albany Vintners, Jeroboams (limited supply), Justerini & Brooks

Fleur Cardinale, St-Émilion
£160 per case of 6 ib Warwick Banks & Jenkins

Grand Corbin Despagne, St-Émilion
£420 per case of 12 Millésima UK

Grand Village, Bordeaux Supérieur
From £67.50 per case of 6 ib Justerini & Brooks, Armit Wines, Jeroboams

Laroze, St-Émilion
£370 per case of 12 Millésima UK

La Marzelle, St-Émilion
£550 per case of 12 Millésima UK

Mazeyres, Pomerol
£130 per case of 6 ib Wineye.com, Nickolls & Perks

Sainte-Marie, Vieilles Vignes, Bordeaux Supérieur
£12.75 The Great Wine Co

Sansonnet, St-Émilion
£140 per case of 6 ib Nickolls & Perks (limited supply)

La Tour de Bessan, Margaux
£250 per case of 12 Millésima UK

La Vieille Cure, Fronsac
£171.50 per case of 6 ib Cru World Wide

Vieux Maillet, Pomerol
£390 per case of 12 Millésima UK

アメリカで入手可能なもの

Ampélia, Castillon Côtes de Bordeaux
$16.94 Saratoga Wine Exchange, NY

de la Dauphine, Fronsac
Many retailers, from $29.37

Feytit-Clinet, Pomerol
Many retailers, from $66.99

Fleur Cardinale, St-Émilion
Many retailers, from $39.95

Grand Corbin Despagne, St-Émilion
Several retailers, from $32.88

Grand Village, Bordeaux
$24.99 Zachys

Laplagnotte-Bellevue, St-Émilion
Several retailers, from $35.99

Lynsolence, St-Émilion
$39.88 B-21, FL

Mazeyres, Pomerol
Several retailers, from $36

Rol Valentin, St-Émilion
$33.99 Michel Thibault, TX

Sainte-Marie, Vieilles Vignes, Bordeaux Supérieur
Several retailers, from $13.99

Sansonnet, St-Émilion
Several retailers, from $39

La Tour de Bessan, Margaux
Many retailers, from $29

La Vieille Cure, Fronsac
Several retailers, from $23.29

Vieux Château Palon, Montagne-St-Émilion
$29.98 Total Wine

Vieux Maillet, Pomerol
$33.98 Allendale Wine Shoppe, NJ

For tasting notes see More bordeaux 2018s and for more stockists see Wine-Searcher.com.

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