ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

361.jpg今日どのワインを開けようかと思っているあなたに。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

普段、「今どのワインを買うべきか」というような記事を書く場合、私は現行ヴィンテージについて書いていることがほとんどだ。だが読者の中にはワインが適切な熟成を経て複雑さを帯びることを願い、若いワインを比較的安く購入し、長く保存している人もいるだろう。

近年ほとんどのワインメーカーたちは意図的にワインをすぐに飲めるように作っている。かつて夏は今より涼しく、ワイン醸造の技術も洗練されていなかったため、酸っぱくて固いワインができてしまうことも多く、結果として飲み頃になるまで長い時間を要していた。しかし、つい最近2019のブルゴーニュや2018のボルドーを数多くテイスティングして、それらの多くがすでに甘美なほどにすばらしく飲み頃であることに私自身も驚きを覚えた。もちろん、現代のワインメーカーたちは社会全体として長期熟成を待てずにワインを飲んでしまう傾向や保存にかかるコストを認識している。一方で、自分たちが現在作るワインも祖先が作っていたワインと同じぐらい長期熟成が可能であることを願っているのである。私自身も今のところは、世界中で温暖化が進んでいるにもかかわらず現代のワインの熟成が早く進みすぎるとは感じていない。

一方、ボルドー、最高品質のブルゴーニュ、ローヌ、ピエモンテ、トスカーナなどの赤ワインは瓶熟成と共にその品質が向上することは疑いのない事実だ。そしてそれらをプリムールで購入する人たちが究極に早いタイミングで大枚をはたく理由もそこにある。

そこで熟成用にワインのコレクションを所有しているという幸運な皆様のために、今開けるべきヴィンテージを提案しよう。もちろん、非常に高価なワインの中にはもっと長く熟成させてもよいワインもある。そもそも比較的安価なワインは熟成が早く進む。億万長者でない私たちは、世界で最も高価な部類に入るようなワインを購入できるお金持ちがそれらのワインを(近年特に)あまりに早く開けてしまう傾向を目にし、つい舌打ちをしてしまう。(私があのワインを持っていたらもっといいタイミングまで待てるのに、というのが根本的な主張だろう)。以下の私のおすすめヴィンテージはそれら両極端の間にあるもので、イギリス人の感覚で飲み頃と思えるものだ。(一般的にフランス人は鑑識眼を自負するイギリス人よりも若いワインを好む傾向にある)。

この記事で取り上げるワインはセラーで熟成させる目的で購入するワインの大半を占めるボルドーが当然主体になってくる。私が積極的に開けようと思う最も若いヴィンテージは2014だ。並外れた2016と、タンニンが非常に強く長期熟成向きの2015の陰に隠れて見過ごされてしまうヴィンテージでもある。

もし2013のボルドーがセラーにあるのなら、お願いだからすぐに飲んでほしい。大げさなことは必要ない。2012は一般的にそれよりはましで、2011もまあましだ。彼らの唯一の罪は、超高額だった2009と2010の価格付けを踏襲してしまったことだろう。もしこれら2つのヴィンテージを何本も所有しているなら、熟度の高い2009は今がピークだからすぐに抜栓すべきだが2010はもう少し円熟しタンニンの角が取れるのを待ったほうがいい。ただし、2010の多くは今でも十分に飲める。

もし今世紀初め10年間のヴィンテージのボルドーをセラーに入れているとしたら、私が開ける順番はざっと以下の通りだ2002、 2007、 2004、 2003、 2001、 2000、 2006、 2008、そして最も凝縮感の高い2005。私の金銭感覚から言うと、この中で最も過小評価されているのは2001、特にポムロールとサンテミリオンのもの、そして私が「最後の購入可能な価格がついたヴィンテージ」と呼ぶ2004だ。実際に素晴らしい喜びをもたらしてくれるワインだった。熱波の訪れた2003は人もブドウも暑い夏に慣れていなかったため変化球の年と言える。そのため多くのワインが甘く、レーズンのようなニュアンスがあるが、必ずしも魅力的でないわけではない。いずれにしても異端児ではあるが。

20世紀に作られたボルドーは今飲む価値があり、1991と1993に関してはもっと早くに飲むべきだったヴィンテージだろう。

ブルゴーニュに関しては近年栽培醸造両面での技術が年々向上してきたため、私の捉え方はかつてニューワールドのワインに抱いていたようなものだ。すなわち、毎年良くなるから、最新のヴィンテージを買うべしということである。自分たちのワインをゆっくり開けたがるブルゴーニュの現地ですら、柔らかく早熟な2017が既に開けられているのをしばしば目にする。このヴィンテージはまだまだ入手可能で、2018が素晴らしいヴィンテージとしてもてはやされたため2017年の名声は霞んでしまったこともあり、ばかばかしいほど高価でないということも大きな利点だ。

ブルゴーニュのグランクリュは長期の瓶内熟成をする価値があるが、今世紀初頭のもので飲み頃のものがいくつかある。素晴らしいヴィンテージだった2000年を始め、当時としては異例なまでに暑かった2003年などはおそらく今飲むべきワインだろう。プルミエクリュに関しては、2006、2007、2008あたりが良い選択肢だ。

ローヌ北部に関しては長命な2009や2010を飲むには少し早いだろう。だがはるかに軽い2011や2012は今飲めば素晴らしい喜びをもたらしてくれるに違いないし、2006も然りだ。

南ローヌに関してはシャトーヌフ・デュ・パプのクロ・デ・パプのヴァンサン・アヴリルに訪ねてみた。彼が自身のセラーの一連のワインの進化に強い興味を持っているのを知っているからだ。彼は赤ワインに関してはしなやかで「ブルゴーニュらしい」2014の大ファンで、より骨格のある2012と2013も開け始めている。いつ飲んでも親しみやすい2011と2004も勧めてくれた。

イギリス人のコレクターたちがアメリカ人に倣い、熟成の価値のあるイタリアワインもそのコレクションに加えていることを願いたい。われらがイタリアワイン専門家、ウォルター・スペラーは2001と2004を今飲むべきバローロの理想的なヴィンテージだとし、おそらくそれほど長持ちしないであろう2015もそれに加えた。お隣のバルバレスコについては2004と2011、それから2014あたりが良いだろう。バローロの名声に陰りの見えた雨の多いヴィンテージをバルバレスコはうまく切り抜けたにもかかわらず不当に評価の低いヴィンテージだから掘り出し物が見つけられるだろう。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの彼のおすすめは2010と2012だ。

同様にスペインの専門家、フェラン・センテレス(Ferran Centelles)がリオハの偉大なヴィンテージとして勧めたのは2010と2011、それに十分に熟成の進んだ2004と2005だ。もし良質な2001のリオハがセラーにあったら、あなたはラッキーだ。市場では事実上もう目にすることはないものだ。

スペインの伝統的な生産者たちのように、ワインが飲み頃になってからリリースするような習慣を他の生産者たちも見習ってくれたらいいのにと願わずにはいられない。しかしそうなると現在おおいに繁盛しているワイン保存倉庫の経営者たちはあがったり、ということになってしまうのだろうか。

白ワインについては来週書く予定だ。

ワインの保存方法
20度以下の安定した温度で、相対湿度は75%程度、直射日光、振動、強いにおいを避けることが最適な条件だ。温度が高いとワインの熟成は早く進む。

ワイン用のセラーは人気が高いが、場所とエネルギーを使う。その代わりに、下記のような専門倉庫も多く存在する。

イギリス
Berry Bros & Rudd
LCB Vinothèque and LCB Dinton
Locke-King Vaults/EHD
Octavian
Seckford
The Wine Society

アメリカ
Many serious wine collectors in the US build their own cellars.
Vinfolio, CA
Western Carriers, NJ
Zachys, DC

フランス
Bordeaux City Bond

香港
Crown Wine Cellars and many more

オーストラリア
Pentridge Cellars
Wine Ark

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