アルコール度数に敏感なワイン愛好家は、まだまだ忍耐が必要な時代だ。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。上の写真はアメリカ(左写真、右下に小さく記載あり)とEU(右写真)のアルコール度数表記の違いだ。
アルコールはワインとジュースを区別するものと言えるかもしれないが、近年多くのワイン愛好家たちは警戒感をもってそれと対峙している。専門的な調査機関、ワイン・インテリジェンスによる近年の世界的な調査によれば、日常的にワインを飲む消費者の40%が自身のアルコール摂取を控えることに積極的だという。だが年々暑くなる夏のおかげで糖はどんどんブドウに蓄積され、その糖は酵母によってアルコールに変換されるため、ワインのアルコール度数は容赦なく上がっている。最近はアルコール度数が14%を超えるワインは珍しくなくなってきた。
消費者たちはワインのラベルにアルコール度数の表記があることに心を許しているかもしれないが、それはどれほど正確なのだろうか。EUではアルコール度数の「許容範囲」、すなわち誤差範囲はほとんどのワインで0.5%だ(スパークリング・ワインや瓶内で3年以上熟成させたワインは0.8%である)。またEUではアルコール度数は0.5%刻みで記載する必要があるため、13.5%とラベルに記載されているワインが実際には14%を超えることも十分あり得るのだ。
この許容範囲はアメリカやオーストラリアではさらに広い。オーストラリアではその誤差は1.5%まで許される。すなわちアルコール度数が13%と記載されているワインは実は11.5%から14.5%の範囲にあるということだ。2008年というはるか昔にワイン・ライターのマックス・アレンはザ・ウィークエンド・オーストラリアン誌に、事実上ほぼすべてのバロッサのワインは14.5%と書かれているが、その多くのアルコール度数は16%であると書いていた。彼はその記事の中で国のワイン機関が国内での許容範囲を0.8%とすることを検討していると書いていたが、今も実現していない(ただし、EUに輸出されるオーストラリア・ワインの許容範囲は「たった」0.8%だ)。
アメリカではアルコール度数を0.1%刻みで記載することが多いものの、14%以下のワインについては1.5%、14%を超えるものについては1%までの誤差が許容される。そのためカリフォルニアワインのラベルに12.5%と記載されている場合、実際には11%から14%までの範囲であるということだ。同様に14.7%と書いてあれば、13.7%から15.7%まであり得る。
また、アメリカのラベルではアルコール度数の記載サイズが非常に小さい点にも触れておきたい。それらを読むのに虫眼鏡が必要なことはしょっちゅうだ。一方でEUではフォントサイズにまともな下限値を義務付けている。
カリフォルニアワイン協会のイギリスのトレード・ディレクターであるダミアン・ジャックマンに、カリフォルニアワインの輸出業者たちはEUへの輸出にあたりEUの規則に合わせるつもりはないのかと尋ねてみた。彼によればこれまでにそう強制されったケースは極めて少ないという。「私はこの5年間、トレジャリー・ワイン・エステートのイギリスとヨーロッパの法規制に関わっていますが、ドイツ当局が一度、カリフォルニアから発送されたベリンジャーの中にアルコール度数が0.5%単位に丸められていないものがあったとして港で輸送を止めようとしたケースがあったと記憶しています。でもイギリス当局からそのようなことを指摘されたことはありませんね」。
瓶詰め後に輸出されているアメリカのワインのほとんどは自国でのラベルから変更をしない(大量の安価なカリフォルニアワインはイギリスまでバルクで輸送され、当地の規則にのっとって瓶詰めされラベリングされる)。イギリスのインポータの中にはまれに0.5%にまるめたアルコール度数を記載したラベルを上から貼ることもあるが、それはそれで消費者がその誤差範囲の解釈に戸惑うだろう。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、とくにアメリカのワイン愛好家たちがアルコールの高さを崇拝した時代があった。ビッグなワインであればあるほど、その価格が高くても評価されたのである。当時はカリフォルニアワインのラベルに16%以上の数字が見られることは珍しくなかった。
だが、知識人の中には高いアルコール度数が合わないワインのスタイルもあると主張するものも現れた。例えばラジャ・パーは15年前、マイケル・ミーナ(レストラングループ)のためのワイン・プログラムを導入した際にアルコール度数が14%以上のピノ・ノワールを排除したことで知られる。ソムリエからワインメーカーに転身し、尊敬を広く集めるこの人物こそがイン・パースート・オブ・バランス(IPOB)という運動を確立し、世の中を当時席巻していた高アルコールのナパ・ヴァレーのカベルネ(いわゆるビッグなワイン)の代替となり得るカリフォルニアワインを提唱した人物だ。
パーとその仲間たちはこうして「ビッグなワイン」への反動を生み出した。そのため今のカリフォルニアのワイン・シーンはこれまで通りビッグなワインを作る保守派とフレッシュでアルコール度数が低いワインを作るために比較的早摘みをする新派に二極化している。現在パーがカリフォルニア南部にあるドメーヌ・ド・ラ・コートで作るピノ・ノワールは、アルコール度数14%をはるかに下回る。
先日私はとある人物に近年のビッグなカリフォルニアワインの実際のアルコール度数とラベル記載の数値との乖離について質問をしてみた(彼はラベルに真実を記載すべきかどうかという議論に巻き込まれたくないので匿名を希望した)。「10年とか20年前に比べたらその乖離は小さいと思いますよ。」そう彼は話した。「実際のアルコール度数が少し下がりましたし、ラベル表記は少し高めになりました。つまり、20年前は本当は15.8%のワインが14.6%と記載されていましたが、今は15.2%のワインが14.9%と記載されるようになっていると言うことです」。
かつての伝統的な、頭蓋骨に響くようなビッグなワインと区別するため、カリフォルニアやオーストラリアのニューウェーブたちはことさら積極的にアルコール度数の低さをアピールするようになってきた。複数のカリフォルニアの情報源によれば、彼らニューウェーブはラベルに正確に記載することとその透明性を保つことにプライドを持っていることが多いそうだ。
一方で、前大統領のドナルド・トランプが2019年8月、エアバス補助金に関連する軋轢の対抗措置として多くのEU諸国からの輸入ワインに25%の関税を課した。これはアルコール度数が14%以下のワインのみに適用されるものだったが、特に正確性を求める動機付けにはならなかった。つまり多くのヨーロッパワインのラベルに記載されているアルコール度数は意図的に14%以上とされているのだが、もはやこれは公然の秘密と言えるだろう。
アルコール度数に関してスパークリング・ワインは分けて考えなくてはならないことにも触れておこう。その泡は二次発酵によって発生する二酸化炭素であり、あまり熟度の高くないブドウから作られた(通常は非常にアルコール度数の低い)ベースワインに酵母と糖の混合物を加えることで得られる。ワインメーカーたちはスパークリング・ワインの最終的なアルコール度数を計算し、添加する糖を決めている。そのため事実上ほぼすべてのEUで作られるスパークリング・ワインはアルコール度数が12または12.5%となるのだ。だからイギリスのワイン貿易協会になぜスパークリング・ワインがスティルワインよりもアルコール度数の許容範囲が広いのか疑問に思い質問してみたが、彼らはまだその理由を探っているところだ。
今週のおすすめとして、アルコール度数が低いけれども個性と喜びをもたらしてくれるワインを紹介しよう。ただしそのアルコール度数はラベルに記載されているものだ。
アルコール度数が低くてもフレーバーに富んだワイン
白
Matthiasson, Tendu Cortese 2018 Clarksburg 12%
£17.95 St Andrews Wine Company, £19.99 The Oxford Wine Company
Zilliken, Saarburger Rausch Riesling Kabinett 2019 Saar 8.5%
£21 The Wine Society
Ferdinand Garnacha Blanca 2018 Lodi 12%
£23.50 Vin Cognito
|
Georg Breuer, Estate Rüdesheim Riesling trocken 2018 Rheingau 12%
£24.50 The Sourcing Table
Keep, Delta White 2019 California 11.5%
£28 Nekter Wines
Vincent Caillé, Terre de Gabbro 2017 Muscadet 12%
£28.99 Handford Wines
赤
Meinklang, Roter Mulatschak 2018 Austria 11.5%
£12.95 Vintage Roots
Chatzivaritis, Carbonic Negoska 2019 Greece 10.8%
£23.50 Maltby & Greek
Matthiasson, Tendu 2018 California 12%
£23.70 Nekter Wines, from $13.99 in the US
国際的な取扱業者についてはWine-Searcher.comを参照のこと。
アルコール度数に関する16本の記事はこちらから。
(原文)