ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

370.jpg他に類を見ないワイン商に関するこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Tips from The Wine Society’s buyersも参照のこと。

イギリス人にとってザ・ワイン・ソサイエティの会員権を取得することは人生の節目とも言える行事だ。故人である私の義父は夫が21歳になったときにその会員権を彼に贈った。私自身も、名付け親を務めたまだ幼い娘に同じことをしようと思ったのだが、会員権は18歳になるまでは与えられないことをその時になって初めて知った。

ザ・ワイン・ソサイエティの生涯会員権を持つことは、イギリス国内で最もお値打ちなワインに出会う扉を開くことを意味する(会員権は40ポンドで、うち20ポンドは最初の発注代金に充てられる)。この、いわば「ワイン購入協同組合」の株主はその会員であり、現在のモットーは「利益よりも情熱を」という心に響くものだ。私自身、ワイン・ソサイエティのテイスティングについて記事を書く際はいつも「お買い得(Good Value)」を意味するGVをつい連発してしまうし、VGV(訳注:超お買い得)の数もまた非常に多い。

フィナンシャル・タイムズの読者で一定以上の年齢である場合、紙面からはワイン・ソサイエティについて本来あるべき量の情報を得てはいないだろう。私の前任者、エドモンド・ペニング・ロウゼルは23年にもわたり、このソサイエティのチェアマンを務めたが、1964年、ちょうどフィナンシャル・タイムズへの寄稿を始めた年にチェアマンに就任した。そのため、彼は公正性を考慮し、自身のコラムでこのソサイエティについて言及することを避けていたのである。エドモンドはワインを愛する複数の専門家たちが1874年に創立したこのソサイエティの近代化を急速に進め、本部を窮屈なロンドン中心部から首都北部、スティーブニッジに近い、拡張を続ける倉庫群の中へ移転させた人物でもある。

会員たちはそのワインに対する思い入れが非常に強いことでも知られる。昨年3月、スタッフのソーシャル・ディスタンスを容易に確保できるようにするため、発注及び配送を7日間停止し、4つの倉庫からなる本部内でのワークフローを再構築した際には大炎上し、CEOであるスティーブ・フィンランは激怒した会員たちの矢面に立たされることとなった。

ただ、希望の光はこの劇的な再構築のおかげで発注への対応速度が格段に上がったことだ。注文に応じて人の手でワインを探して詰める(その40%が混載だ)12本入りのワインを1日あたり3000ケースもさばくことができるようになったのである。このことは特に会員を増やす活動をしていなかったにもかかわらず、「コロナ禍のおかげで会員が急増し、今や実質的な会員だけで17万人(パンデミック前は15万5千人ほど)となりました。この数値は当初、18カ月先に到達すると予測されていたものです。」とバイヤー・ヘッドであるピエール・マンスール(Pierre Mansour)が話す、会員数の急増にも幸いした。

「最近は売れ行きが良すぎるほどです」とはPRマネージャーのユアン・マレー(Ewan Murray)だ。「特に飲食店の穴を埋めるようになってからですね。予測担当者は頭を抱えていますよ」。これについてはフィナンシャル・タイムズでレックス(Lex)を担当するアラン・リヴゼイ(Alan Livsey)に聞いてみるといいだろう。彼はブルゴーニュ2019の販売が解禁となった2日後に、それほど人気が高いわけではない白のブルゴーニュを2種発注したのだが、どちらも売り切れと言われたそうだ。

ザ・ワイン・ソサイエティの魅力は、その良心的な利幅だけでなく、バイヤーの高い能力にもある。通常春に開催されるワイン・ライターのためのテイスティングの代わりに先月開催された、8名のバイヤー全員が交代で担当したオンライン・プレゼンテーションのおかげで、私は一日中楽しく過ごすことができた。この春のテイスティングは基本的に、秋に開催するものに比べて価格帯の安いものに注目して行われるものだ。

1400種余りの現在入手可能なワインはその品質だけを基準に選りすぐられたもので、生産者が出展料を払ったり、販売促進の資金を提供したりしたものではない。中には40年を超えて取引を続ける生産者もいるが、昔からのお気に入りだったとしても該当するヴィンテージの出来に失望した場合には容赦なくその年の取引は行わない。

バイヤーたちに、今の売れ筋を聞いてみるのも面白い。ソサイエティの会員は(平均年齢が下がり始め、現在は47歳だ)一般の人よりも伝統的産地に興味が向かいがちだが、ソサイエティ自体の品ぞろえは下記の国々を見てもわかるようにそれほど堅苦しくない。缶入りワイン(南アフリカのシュナン・ブラン)も導入しているし、マンスールはインスタグラムを巧みに使いこなしている。

バイヤー・チームによれば、ロゼはこの2年非常に強力だったものの、赤のボルドーが現在でも最も大きなカテゴリーであり、特に無名であまり価格の高くないものが人気だという。ソサイエティは魅惑的な格付けシャトーのプリムール商戦に参加しない、イギリスでも稀有な存在でもある。(ソサイエティの会員であることの価値はもう一つ、ソサイエティで購入したワインに限って非常に質が高く適正な価格の保管倉庫を使える点だ)。

ボルドーのバイヤー、ティム・サイクス(Tim Sykes)は「探そうと思えばボルドーには10ポンド以下の素晴らしい赤ワインが眠っています。それらの需要は満たされることがなく、ちょっと熱意を込めたメールを配信しようものなら供給が追い付かなくなるほどです」と力を込めた。

彼はシェリーの買い付けも担当しているが、昨年の売り上げは24%増加したそうだ。シェリーのファンは成熟したワインファンに加え、ソサイエティの中では比較的若く、流行に敏感な会員だという。「シェリーにとって大きなハードルは、その中間層、40代から60代の層に訴求することですね」。

最年少で最近バイヤーとなったマシュー・ホースリー(Matthew Horsley)は昨年、イギリス・ワインの売り上げが3倍以上になったと喜び勇んで話してくれた(ただし、彼はこの役職に数年間ついているものの、自宅のキッチンより遠くには旅していない)。

彼はギリシャも担当しているが、彼の言葉を借りれば「気が狂ったよう」だそうだ。「この12か月間で売り上げは200%増加し、その筆頭はティミオプロス・ジューヌ・ヴィーニュ・クシノマヴロ(11.5ポンド)と、ソサイエティの(訳注プライベート・ブランドである)グリーク・ホワイト(8.95ポンド)です」。彼らはややあか抜けないラベルのプライベート・ブランド「ザ・ソサイエティーズ」を30種ほど提供しており、ソサイエティの初めての会合が開かれたロイヤル・アルバート・ホールの絵がラベルになっている「エキシビジョン」レンジではもう少し価格の高いワインも用意している。

ピエール・マンスールはスペインワインの買い付けを担当しており、この10年で特に10ポンド以下の赤ワインが伸びていると話した。その中でも全体の売り上げの中でもベストセラーと呼べるのは、6.5ポンドで販売されているナバラのサビーナ・テンプラニーリョだ。

彼はレバノンとのハーフであることもあって、彼らのポートフォリオの中では数少ないレバノンのワインも買い付ける。昨年のベイルート火災による惨事のあとにレバノン・ワインの特別なセットを作ったところ、3週間で1年分のレバノン・ワインが売れたそうだ。

一方、熱烈なバイヤー、フレディ・バルマー(Freddy Bulmer)はオーストラリア、ニュージーランド、そして東ヨーロッパの担当だ。彼が言うには「安定して品質の高い」オーストリアのワインが1年で118%増加したとのことで「グリューナー・ヴェルトリナーは1本15~20ポンドで十分な熟成の可能性を秘めていますから」。

ソサイエティのブルゴーニュおよび南アメリカ担当はトビー・モーホール(Toby Morrhall)だ。彼は年に2週間をチリで過ごし、チリワインに関する専門性には誰もが一目置いている。彼は2本の優れたチリのソーヴィニヨン・ブランを見せてくれたが、同じスタイルと価格でニュージーランドが8倍以上の量を販売していることには舌を巻いていた。

革新的な南アフリカの生産者、チャールズ・バック(Charles Back)が、素焼きの容器でワインを作ると決め、白ワインを今風に果皮と接触させると(あのオブスクラ・クヴェヴリ(Obscura Qvevri)である)、ソサイエティの南アフリカ担当バイヤーでマスター・オブ・ワインでもあるジョアナ・ロッケ(Joanna Locke)はすぐさま彼のためだけにオレンジ・ワインとアンフォラ・ワインのテイスティングをスティーブニッジで企画している。

こうしてみるとザ・ワイン・ソサイエティは順風満帆に見えるが、昨年のクリスマスにはイギリス国内でアマゾンの注文が急増したことによる予期せぬ段ボール不足に危うく足をすくわれるところだった。

なお、ソサイエティはポンドが強いこともあり、5月の価格改正で一部の価格を下げる予定だ。イギリスの政府が最近の予算委員会でワインに対する税金を珍しく引き上げなかったこともありがたい。

正直、この記事はイギリスに拠点を置く人以外にはあまり興味のない話だろう。だがザ・ワイン・ソサイエティの商品は他の国でも入手が可能だ。以下に記すおすすめが、読者のみなさんの国でも役に立つことを願う。

特にお買い得なワインたち
最近ザ・ワイン・ソサイエティが提案した48種のワインのうち以下の21本はGVまたはVGVだと思う。75ポンド以上購入した場合にはイギリス国内のほとんどの住所へ無料で配送してくれる。

白ワイン
Las Lomas, Undurraga Sauvignon Gris 2020 Leyda Chile 13.5%
£8.50

Alpha Zeta, The Society’s Pinot Grigio 2020 IGT Veneto Italy 13%
£8.50

Familie Mantler Roter Veltliner 2019 Niederösterreich Austria 11.5%
£8.95

Lubanzi Chenin Blanc 2020 Swartland South Africa 12.5%
£9.95 (or £3.95 per 25-cl can)

La Couronne, Jacques Mouton Madeleine Chardonnay 2020 Franschhoek South Africa 13.5%
£10.95

Jean-Paul Brun, Terres Dorées Classic Chardonnay 2019 Beaujolais 13%
£12.50 (arriving 13 April)

Birgit Braunstein Pinot Blanc 2019 Burgenland Austria 13%
£13.50

Lyrarakis, Armi Thrapsathiri 2019 PGI Crete 14%
£14.50

Joseph Burrier, Dom de la Rochette, Mont Sard 2019 Mâcon-Bussières 14%
£14.95

Cayetano del Pino y Cia, Solera Palo Cortado NV Jerez – Xérès – Sherry 20%
£16

赤ワイン
Undurraga, Candelabro Cinsault 2019 Itata Chile 13.5%
£7.50 (sold out but look out for the 2020)

Félines Jourdan 2019 Languedoc 13.5%
£7.50

Rui Roboredo Madeira, Altos da Beira 2019 IGP Terras da Beira Portugal 13%
£8.50

Les Vins Aujoux, Les Pierres Dorées Cuvée Louis Dépagneux 2020 Beaujolais 13%
£8.50

Ch Lary-Tagot 2018 Bordeaux 14%
£8.50

Ch Ksara, Old Vine Carignan 2018 Bekaa Valley Lebanon 13%
£11.95

Mancuso Garnacha 2018 Cariñena Spain 14.5%
£12.95 (not yet in stock)

Lyrarakis, Plakoura Mandilaria 2017 PGI Crete 13%
£12.95

Jean-François Quénard, Terres Rouges Mondeuse 2019 Savoie 12%
£13.50

La Rioja Alta, The Society’s Exhibition Reserva 2015 Rioja (also sold as Viña Alberdi) 14.5%
£16.50

Dom Sylvain Pataille, Les Longeroies 2017 Marsannay Burgundy 13%
£35

テイスティング・ノートとお薦めの飲み頃はTips from The Wine Society’s buyersを参照のこと。各国の取扱業者はWine-searcher.comを。

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