アメリカはオーストラリアに想われているほどオーストラリアのことを好きでなさそうだ。なぜだろう。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。アメリカにオーストラリア・ワインを輸入しているオーストラリア人の考えを文末に添えた。上の写真は2018年、レイク・タホで撮られたオーストラリアのトップ・ワインメーカーたちだ。
前にオーストラリアに関する記事を書いてから1年が経過した。イギリスにいる我々にどの国よりも多くワインを輸出してくれている国なのに、おかしなことだ。
アデレードからサウサンプトン、アデレードからブリストルというのがオーストラリア・ワインの主要な運搬ルートで、フレキシタンクが使われることが多い。どこよりも多くオーストラリア・ワインをイギリスに輸出しているアコレードは、その93%をバルクで輸送している。これは炭酸ガス排出量削減という意味では非常に理にかなったことだが、裏を返せばイギリス人はオーストラリアの安いワインを飲むのが好きだということでもある(一般的にイギリス人というのは安いワインを好む。イギリスで販売されているワイン1本あたりの平均小売価格はたった6.16ポンドで、そのうち関税と消費税が3.26ポンドを占めている)。
だがアメリカでは、今世紀初頭にもう少し高額なオーストラリア・ワインにほんの短期間注目が集まったものの、バイヤーたちはオーストラリアにそれほど熱を上げてはない。オーストラリア政府による5000万豪ドルもの輸出支援プログラムがアメリカ市場に向けられているにもかかわらず、である。
公的団体であるワインオーストラリアは北アメリカのワイン業界で影響力のある人物たちにオーストラリア・ワインに触れてもらうため、あらゆる手段を講じてきた。2016年からパンデミックが起こるまでの間、実におよそ100名ものプロがオーストラリアに招待され、テーラーメイドのワイン・ツアーを体験した。2018年と2019年には主要なソムリエ、メディア、業界のプロがカリフォルニアのリゾート地、レイク・タホに招かれ、贅沢な4日間に及ぶオージー・ワイン・ブートキャンプに参加した。ザ・ワイン・バイブルの著者、カレン・マクニール(Karen MacNeil)は自身も参加したこのキャンプについて、多くの人々が世俗と切り離された状態で数多くの著名なワイン生産者と出会い、その物語を聞くことができたことは「非常に情緒的で特別な」経験だったと記している。
だがこれだけの努力にもかかわらず、アメリカのオーストラリア・ワインの輸入量はイギリスと比較して価格ベースでほぼ同等であるものの、数量ベースでは圧倒的に少ない。昨年アメリカへ輸出されたオーストラリア・ワインの量は3%減少している。なぜアメリカ人たちはオーストラリア・ワインの魅力に鈍感なのだろうか。カリフォルニア・ワインに似たところがあるからだろうか(だが同じことはアルゼンチンにも当てはまるはずなのに、こちらはアメリカで大きな成功を収めている)。甘く、大衆向けのオーストラリア・ワインのブランド、イエローテイルの成功がオーストラリア・ワインのイメージに常に影を落としているからだろうか。オーストラリア・ワインとの出会いの有効な場所となるはずのオーストラリア・レストランがアメリカに少ないからなのだろうか。
国内市場が比較的小さいため、オーストラリア・ワインの生産者たちは生き残るためには輸出をするしかない。そして近年その偉大な救世主は高価なオーストラリアの赤ワインが大成功を収めた中国だった。昨年、中国本土での売り上げはオーストラリア・ワイン輸出量のうち、価格ベースで31%を占めていた。これはイギリス(17%)やアメリカ(16%)のおよそ倍であり、さらにそこに香港が5%を上乗せする。
だが、トレジャリー・ワイン・エステートのトップ・ブランドであるペンフォールズが大きな影響力を持ち、そのあまりの成功に中国国内でベンフォールズ(Benfolds)やペンフェーズ(Panfaids)など模倣ブランドが続々と生産されたチャイニーズ・ドリームは、うたかたの夢となった。中豪関係は冷え込み、昨年11月中国がオーストラリアに対して非情なまでの懲罰的関税を課したことで、中国への輸出は昨年12月には98%もの減少を見せたのだ。
オーストラリアの至高のワインたちをまさに40年間、こよなく愛する私としては、中国に輸出されるはずだったワインの行く末が気にかかる。カリフォルニアの2020の収穫は昨年10月に起こった山火事によって深刻な打撃を受けた。このカリフォルニアの生産量減少はある程度オーストラリアに有利に働くかもしれない。いずれにしても、山火事の前の状態ではカリフォルニアのワインの供給量は相当過剰だった点は指摘しておこう。
フランスとイタリアを先月襲ったひどい霜(和訳)のためにヨーロッパで2021年の収穫量が縮小することになるだろうこと、同様に霜と、開花期の不安定な天候の影響でニュージーランドでもこれまでになく2021年の生産量が減少するであろうことを知ったとき、真っ先に私が思ったのはこれでオーストラリアが少しは救われるかもしれないということだった。
しかし、地球上のあらゆる場所と同様、オーストラリアも異常気象に悩まされてきた(山火事や洪水のため、2020も2019も生産量はこれまでになく少ない)。だから中国に関連した余剰がもたらす打撃は、量的な側面からすれば、かつて想定されていたよりも軽くて済むようだ。だが今年中国に向かう予定だった1億2000万リットルほどのワインは11億豪ドルに相当し、それを全て引き受ける国が現れるとは思えないし、それらのほとんどは豪華なパッケージをされたフルボディの赤ワインだから、生産量が減少したマールボロのソーヴィニヨン・ブランの穴を埋めるためには使えないだろう。
一方、つい先日集計されたオーストラリアの2021年のワイン生産量は、主要なワイン生産州である南オーストラリアではほぼ完ぺきと言われている。ということは今こそオーストラリア・ワインのイメージを大きく見直す良い機会であるのではないだろうか。オーストラリアの問題は、スーパーマーケットの低価格帯のレンジを安価で安定的なワインで埋め尽くすことに成功しすぎてしまったことだ。そのためオーストラリア国外のワイン愛好家たちはオーストラリアが上質なワインも生産しているという認識を持つことが難しくなってしまったのだ。
オーストラリアでは事実上必須となったスクリューキャップは、市場によってはネガティブに働くこともある(そのためオーストラリアのほとんどの生産者はスクリューキャップの技術的な完璧さへの信仰を捨て、中国向けのワインには天然コルクを使うようになった)。また、第一線を走るペンフォールズのグランジを除き、オーストラリアのワインが高級ワイン取引の場に登場することがないという事実も、オーストラリア・ワインのイメージとしてポジティブには働かないだろう。
オーストラリアのオークションハウス、ラングトンはオーストラリアでコレクションに値するワインの活発な市場を創り出すことに成功したものの、その現象はオーストラリア国内にとどまっている。国際的な取引の場であるLiv-exの報告にはペンフォールズのグランジも含まれているが、オーストラリアが全体の取引に占める割合は2%にも満たない。
最近、私のもとに2015のカベルネ・ソーヴィニヨンのサンプルが12本送られてきた。うち7本はオーストラリアのもので、残りは他の国々のものだった。オーストラリア・ワインのうち少なくとも6本はあらゆる面で非常に優れており、ボルドーファンの多くがこれを飲んで驚き、そして喜ぶのではないかと感じた(1970年代のナパのカベルネを想起させてくれた。拍手喝采だ)。
現在オーストラリアの輸出ワインはシラーズが圧倒的に多い。伝統的にオーストラリアのシラーズは力強いスタイルだ。おそらく今のフレッシュさを求める流行の中では力も肉付きも過剰だろう。だが同じような位置づけであるカリフォルニア同様、オーストラリアでもアルコールと樽、そして凝縮感を敵とみなす新進気鋭の生産者たちが増えている。
この国で3番目に多く輸出されているシャルドネも同様だ。私は批判を承知で声を大にしてこう言いたい。オーストラリアの上質なシャルドネは親しみやすさと洗練性のバランスを完璧に取れるところにまでたどり着いたのだ、と。
とこで、私はレイク・タホには招待すらされていない。
超おすすめのオーストラリア・ワイン
これらは最近私がテイスティングしたものに過ぎず、他にも良いものが沢山ある。
白ワイン
Vasse Felix, Filius Chardonnay 2019 Margaret River 12.5%
£9.99 Waitrose Cellar, £14.99 Majestic and many other UK retailers
From $20.99 multiple US retailers
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Yalumba, Samuel’s Collection Viognier 2017 Eden Valley 13.5%
£13.95 Wine Direct, £15.99 Taurus Wines and other UK retailers
From $11.95 multiple US retailers
ヴィンテージ違い
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Frankland Estate Riesling 2019 Frankland River 13.5%
£18.95 Winedirect
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Pewsey Vale, The Contours Museum Reserve Riesling 2012 Eden Valley 12.5%
$32.99 Pennsylvania Liquor Control Board
Vasse Felix Chardonnay 2018 Margaret River 13%
£25.99 Soho Wine Supply and other UK retailers
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Ten Minutes by Tractor, 10X Chardonnay 2019 Mornington Peninsula 13.5%
£28.99 Bancroft Wines and other UK retailers
From $33.99 multiple US retailers
Torbreck, The Steading (white Rhône blend) 2019 Barossa Valley 13%
£31 Honest Grapes, £33.50 Specialist Cellars
ヴィンテージ違い
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Pierro Chardonnay 2019 Margaret River 13.5%
£42.95 Jeroboams
赤ワイン
Wickhams Road Pinot Noir 2020 Gippsland 13%
£18.95 Stone, Vine & Sun
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Frankland Estate Shiraz 2017 Frankland River 14.5%
£18.99 Bancroft Wines
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Wynns, Black Label Cabernet Sauvignon 2014 Coonawarra 14%
£29 Harvey Nichols, £29.95 Philglas & Swiggot
Swinney Grenache 2019 Frankland River 14%
£29.50 The Great Wine Co
Hoddles Creek, 1er Pinot Noir 2019 Yarra Valley 13.2%
£32.95 Stone, Vine & Sun
Pierro, Reserve Cabernet Sauvignon/Merlot 2016 Margaret River 14%
£41.95 Jeroboams
Mount Mary, Quintet (bordeaux blend) 2015 Yarra Valley 13.5%
£74.68 Berry Bros & Rudd
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世界の取扱業者についてはWine-Searcher.comを参照のこと。
アメリカでオーストラリア・ワイン専門のインポータに在籍し、ソムリエで作家でもあるジェーン・ロペスが、オーストラリアが本来ならアメリカで確立していたはずのその地位を得られていない点について、歴史的な背景を教えてくれた。
オーストラリアのワインは1990年代から2000年代初頭にかけてアメリカでも人気がありました。ところが2000年代中盤になるとオーストラリアで鉱山ブームが起こり、豪ドルが非常に力を増しました(米ドルよりも強くなりました)。そのためオーストラリアのワインはアメリカ国内での価格上昇に耐えることができなくなり、需要が低下し興味が失われてしまったのです。
また世界的な金融危機のためにオーストラリアでも統合が進み、一部ではそれに伴う品質の低下も見られるようになりました。
イエローテイルがアメリカにやってきて、オーストラリアの顔になりましたが、そのために人々はオーストラリアを安価なバルクワインだと捉えるようになり、1本あたり10ドル以上を支払うことに抵抗を覚えるようになったのです。
更に、私の考えでは近年にも問題があります。
オーストラリアはアメリカの教育に失敗したのだと思います。つまり、オーストラリア・ワインには高いお金を支払う価値があるとアメリカ市場に教えてこなかったのです。その理由の一部は、オーストラリア人たちが本質的に自分を卑下する傾向にあることだと思います。自分たちのワインがブルゴーニュやボルドーなどの高級ワインと同等に扱われるべきであると言う(あるいは信じる)ことがなかなかできずにいるのです。
それから、地域性を強調するという点でも苦戦していると私は思います。オーストラリア人はサブリージョンや畑など、詳細な核心に迫ることを嫌い、比較的大雑把なままでありたがるからです。マーガレット・リヴァーはメドックとほぼ同じ栽培面積ですが、メドックには8つのアペラシオンがあって、消費者が品質やスタイルの目安にしやすいのに対し、マーガレット・リヴァーにはそれ自体単一のものでしかありません。しかも、8つのアペラシオンは「メドック」や「ボルドー」というブランドを弱体化させるどころか強化しているのにもかかわらず、オーストラリアはマーガレット・リヴァーでそれを行うと(マーガレット・リヴァーという)ブランドの弱体化につながるのではないかと危惧しているのです。GI全体を均一なものとして見てしまうことで、個々のワインのニュアンスを知ることが妨げられているのです。
またオーストラリアではアメリカの市場がどのように構成されているのか、あまり理解が進んでおらず、スリーティアーシステムに適した価格設定ができていないと言えます。その結果、ワインの価格はは市場に出た時点であまりに高くなりすぎてしまい、ワインリストや店舗の棚で定番商品というよりは目新しいものという位置に甘んじることとなっています。
弊社ではオーストラリア・ワインはどの国よりも品質に対して価格が安いものだと信じています(全体的に労働者に恵まれ、堅実に栽培を行っています)し、それを武器に市場のシェアをもっと獲得するべきだと考えています。そうすれば更に高価格帯のワインが受け入れられるようになるはずです。消費者やバイヤーたちがオーストラリアという国を価値のあるものだと理解すれば、より高いお金を払えば、さらに良い品質のワインが手に入ると考えるようになるからです。弊社では生産者たちがこのような過程を経ることができるよう導くことを業務の一環と捉え、アメリカ市場の現状を彼らに伝えることが重要だと考えています。
オーストラリアに関する記事はこちらから。
(原文)