ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

380.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。White rioja’s evolutionも参照のこと。上の写真はコンティーノ・エステーとのブドウ。

 

この上なく公正な立場でワインを書く人間だって、一定のカテゴリーのワインに恋をすることはある。例えば私は1970年代にカリフォルニアで作られたワインが好きだ。一方で1990年代から今世紀初頭に作られた個性のない、超完熟のフルーツ爆弾のような典型的なカリフォルニア・ワインには辟易していた。特にそれらが他の同様なワインに比べて高すぎた場合はなおさらだ。だが今、西海岸の新世代の生産者や、彼らが生み出すバラエティ豊かなワインのおかげで、再びカリフォルニアに心が引き寄せられるようになった

 

同様なことはおそらく1980年代、ブルゴーニュが心地悪いほどに酸が高く、薄っぺらで未熟だった時代、あるいは単につまらなかった時代にもあった。今世紀に入ってようやく、ブルゴーニュの赤も白も、安定した品質が得られるようになった(残念なことにはるかに高額にもなってしまったが)。価格はさておき、私はかつてよりはブルゴーニュというカテゴリーに面白みを感じるようになってきたし、実はまだまだ掘り出し物もある。

 

最近ワイン自体に進化が感じられ、見る目が変わったワインと言えばリオハの白だ。1970年代終盤に初めてそれに出会った際には非常に印象的なワインが存在していた。例えばマルケス・デ・ムリエタのカスティーリョ・イガイなどは深いアプリコット色で蜜蝋やレモンの香りがむせ返るほどで、あらゆる点から見てブルゴーニュと同様な長期熟成が可能なものだった。その後1980年代には発酵温度を低く管理して果実味とフレッシュさを維持したスタイルに遷移していったが、その多くは個性を犠牲にしていたとも言える。あまりに多くのリオハの白が単に切れが良く、軽やかだが特長に乏しくなってしまったため、私も興味を失った。

 

ところが、最近テイスティングした一連のワインで私のリオハの白に対する情熱に再び火が付いた。最近の多くのワインは、まさに個性の塊で興味深く、よく熟成した辛口の白ワインだ。単にのどを潤すためではなく、間違いなく食事と合わせて楽しむスタイルだ。あの蜜蝋やレモンの香りを再びまとい、時にはリッチでクリーミーなテクスチャを伴ったラノリンも感じられる。それでいてフレッシュさは失われていないのだ。すべてではないが、うまくできているワインの多くは、リオハの赤同様に樽で熟成を行い、近年珍しいことだがそれを誇りとしているようだ。上質なリオハの白は樽熟成に十分に耐えるということだろう。

 

スペインで最も有名なワイン産地に植えられているブドウのうち、果皮の色が薄いのは10%ほどしかなく、ビウラはその中で群を抜いて最も栽培面積が大きい品種だ。実は私は長いこと、スペインの他の地ではマカベオ、フランスとの国境を超えるとマカベウとも呼ばれるこの品種のファンである。ルーションではドメーヌ・ゴビー、ドメーヌ・ド・ロリゾン、ラファージュ、オリビエ・ピトン、ル・ロック・デ・ザンジュなどが、この品種から本格的で熟成の価値のあるワインができることを証明している。Macabéo/Viura – the Cinderella grape? も参照のこと。

 

ビウラ(マカベオ)のもう一つの特徴はリオハのおよそ半分のビウラの樹齢が40年を超えることだ。それはすなわち、収量は低いものの特長にあふれるブドウを生み出すことを意味する。この産地の伝統的な品種には他にマルヴァジアがあるが、ほとんどがブレンドに使われ、そのおよそ40%は樹齢が20年以上のものだ。

 

ところが、リオハの管理当局であるコンセホ・レグラドールは2009年、様々な理由から国際品種であるシャルドネやソーヴィニヨン・ブランを植えることを推奨した。これはリオハの土地ならではの特長を失うことにつながると言える。これら2品種は現在、合計で白ブドウ品種の栽培面積の6%を占めている。同時に当局はスペイン品種と呼べるガルナッチャ・ブランコ(グルナッシュ・ブラン)、テンプラニーリョ・ブランコ、マトゥラナ、トゥルンテス(Turruntes)、ベルデホなども推奨している。テンプラニーリョ・ブランコはリオハで主役を務める赤ワイン用品種の変異種であり、初めて同定されたのは1988年と比較的最近だが、これらの品種の中で最も人気が高く、すでにリオハの白ブドウ品種の13%を占めるまでとなった。

 

だが最近テイスティングした白のリオハはその多くは真に土地の特徴を反映したもので、まったく「国際的でなかった」ことを私はとても嬉しく思った。フィンカ・アジェンデやコンティノなどは古代と現代を見事に融合させていた。その中で最も伝統的なスタイルだったのは(おそらく一部の人にとってはあまりに伝統的すぎるかもしれないが)、1877年、アロに設立された歴史あるボデガを経営する、ロペス・デ・エレディアの姉妹が作った2本だ。このボデガはカビ病の大打撃とフィロキセラの影響で苦しんでいたフランスにワインを樽で輸送するため、1901年まで積み込みを行っていた駅のすぐそばにある。

 

ロペス・デ・エレディアの白は現代のほとんどの白ワインよりもはるかに長く樽で熟成を行い、非常に手ごろな価格でリリースされる。トンドニア・ブランコに使われるブドウが引き抜かれてしまうのではという心配な噂もあったが(詳細は下記参照*)、現在はトンドニア・ブランコ・レセルバを2003のヴィンテージまで市場で見つけることができる。香港のとあるワイン商はこのアンティークともいえるワインを1本たった40ドルで販売しているが、アメリカの別のワイン商は2002のグラン・レゼルバを85ドルで販売している。その兄弟分とも言えるヴィーニャ・グラボニアの現行ヴィンテージは2010、2011、2012(wines of the week参照のこと)で、イギリスでは平均1本あたり24ポンドだ。この価格で10年物のワインが見つかるかどうか、探してみるといい。

 

このようなアメリカン・オークの影響が明確なスタイルのワインが飲みたいと思ったら、その近道は、ボデガス・ロハナスのモンテ・レアル2020を探すことだろう。樽発酵で、流行のスタイルとはいいがたいが、明確な甘いバニラのような樽香が感じられ、同時にビウラのフレッシュな柑橘系の香りも楽しめる。

 

私の息子、ウィル・ランダーが経営するロンドンのクオリティ・チョップ・ハウスのヘッド・シェフ、ショーン・シアリー(Shaun Searley)はきっと赤ワインを好むだろうと思いがちだが、実は彼はリオハの白の大ファンだ。「私にとってこのワインは非常に複雑なので料理と組み合わせるだけでなく、暑い日にワインだけを楽しむのにも最適なんです。」と彼は言う。「リッチでカラメルのような、バターのような味わいと鋭い砂糖漬けレモンの皮のようなフィニッシュがね」。彼のおすすめは「リオハで蒸した貝のビッグ・プレート(ワインが2本は必要かもしれない)や単に熟成したコンテ」だそうだ。

 

レストランは一般的に、リオハには好意的だ。幅広い料理に合う、熟成した珍しい白ワインをお買い得価格で顧客に提供できるからだろう。白のそんなお買い得なワインをみなさん自身も試さない手はないだろう。以下に皆さんが少しずつそのスタイルに慣れることができるよう、リッチさやファンキーさの低い順に私のお気に入りを並べてみた。

 

 

*マリア・ホセ・ロペス・デ・エレディアからのメール

あなたのご質問にお答えします。確かフェラン・センテレスからも同じことを聞かれましたが、答えはノーです。ヴィーニャ・トンドニアでもヴィーニャ・グラボニアでも、これまで白ワイン用品種を引き抜いたことはありません。ただ、ブドウの樹齢が高くなりすぎて(100年以上)引き抜かざるを得なかった場合に、白ブドウの需要が非常に少なかったため同じ比率で白ブドウを植えないという判断をしてきたのは事実です。私たちの作る白ワインのスタイルに対し、多くの賛辞を頂いた時期があったのは確かですが、実際に注文はほとんどありませんでした。父は今ほど市場が良い反応を見せてくれなかった時代にも、リオハの他の誰よりも多くの白ブドウ品種を維持してきました。現在生産量が少ないのは白ブドウを引き抜いてしまったからではなく、樹齢が非常に高いため、収量もとても少ないからです。同時にここ数年は気候の影響で1ヘクタール当たり2000キロほどしか収穫できなかったこともありますし、そんなワインを多くの国に割り当てなくてはならないという事情もあります。私たちの作る白ワインのスタイルは決して大勢に受け入れられるものではありませんが、ジュリア・ハーディングがとても丁寧に説明してくれたように、多くのプロには歓迎されるスタイルだと考えています。

また、あなたが興味を持ってくれるかもしれない情報としては、長い間(1990年代)リオハの農業当局(Rioja Agriculture Council)は白ブドウを引き抜くことを推奨してきました。白ブドウを引き抜いた場合にはその面積に50%を加えた赤ワイン用品種の栽培用地の所有権が得られるのです。これはすなわち、1ヘクタールの白ブドウを引き抜いたら赤ワイン用品種を1.5ヘクタール栽培できるということです。ところが時代の流れが変わったので、DOリオハは白ワインのマーケティングに再び力を入れ始めました。

ヴィーニャ・グラボニアは私たちの曽祖父が1909から1912年の間に購入したもので、(フィロキセラ後に)現在の状態に植え替えを行ったのも曽祖父で、1925年のことでした。当時祖父は35才だったそうです。ということは今の畑にあるビウラはほとんどが96歳なんです。下の写真はJesús R Rocandio が2015年に撮影したヴィーニャ・トンドニアのお気に入りの写真です。

ヴィーニャ・トンドニアの大部分は1877年から1900年にかけて購入し、(フィロキセラの後の)1913年から1914年に植え替えられたものです。その後適切な台木の知識がなくフィロキセラに何度か襲われたことや、その他の事情もあって、この畑は数回植え替えられています。そしてそれ以降も私たちの所有する最大の畑であるが故、様々な変化を経験しています。

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お薦めのリオハの白

 

Beronia 2019 13%

£9.16-£9.95 The Drink Shop, Songbird Wines, Winedirect, Master of Malt

 

Hacienda López de Haro 2020 12.5%

£10.99 Majestic Wine

ヴィンテージ違い

 

Santalba, Viña Hermosa Viura 2019 13%

£15.90 Catchpole Cellars

 

CVNE, Monopole 2019 13%

£11 RRP Noble Green Wines, Hoults Wine Merchants, Flagship Wines, Luvians, Shenfield Wine Co

 

Muga 2020 13.5%

£10.50 The Wine Society, £12.99 Majestic Wine and others

 

Izadi 2019 13.5%

£15.95-£16.99 Noel Young Wines, Loki Wine, Grand Cru Company

 

Riojanas, Monte Real 2020 12.5%

£14 RRP Stewart Wines, First Class Products

 

Ortega Ezquerro, Don Quintín Ortega 2019 and 2018 13%

£16.95 (2018) Jeroboams

 

Finca Allende 2016 13.5%

£26.99 Bancroft Wines

 

Contino 2017 Rioja 13.5%

From £20.99 Roberts & Speight, VINVM, Dulwich Vintners, Field & Fawcett, Evington’s, Hedonism

 

CVNE, Monopole Clásico 2017 13.5%

From £24.50 Winedirect, Hedonism and other independents

 ヴィンテージ違い

López de Heredia, Viña Gravonia 2011 12.5%

From £22.90 Field & Fawcett, Vin Neuf, Hennings Wine, Bottle Apostle, Handford Wines

 

世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

 

それでもリオハの赤がいい、という向きはフェランの書いたこちらのレポートを参照のこと。

 

 

(原文)