ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

386.jpg自ら招いた樽不足、新たな呼び名、原料調達先の変更、そして自己評価を高める安ワイン生産者。全てオーストラリアで起きていることだ。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。休暇から戻って4週間ぶりの記事だ。写真はリヴァーランド・ワインズの提供(Picture of Riverland vineyards courtesy of Riverland Wines)。対応するテイスティングの記事も参照のこと。

オーストラリアで新型コロナの感染率が低いことをうらやんでいた時期を覚えているだろうか?今かの国の名高い孤島ぶりはそれほど素晴らしいものとは言えないかもしれない。特にワイン生産者にとっては。

オーストラリアはその輸入経路をいわば世界最長の海上ルートに依存してきた。

だが、世界中に物資を輸送することは現在悪夢の時代を迎えている。コロナのために労働力も、輸送用コンテナも不足し、スエズ運河の混雑は言うに及ばず。全てがこれまでにない遅延と、輸送コストの増大につながっている。

これらに関連して起きた小さな変化は、オーストラリアのワインメーカーたちが今、ワインを熟成させるために広く使われている、フレンチオークで作られた樽を必死になって探し求めていることだ。オーストラリアでは2021年、全体に非常に出来が良く、量も潤沢なヴィンテージとなった。そしてそのワインは今、タンクから樽に移動させる準備が整っている。通常その後に続く熟成工程は何か月もかけて行われるものだが、この国では現在、新樽の在庫が事実上底をついている。この状況にさらに輪をかけたのが昨年オーストラリア各地で起きた山火事だ。すなわち2020年のヴィンテージ用の樽の発注量は通常よりもはるかに少なかった。そのためオーストラリア国内に保管されている樽の在庫が史上最低となっていたのだ。

2020年のカリフォルニアの山火事でも、アメリカからのフレンチオークの発注は減少した。そのため一部の報道とは異なり、世界的なフレンチオーク不足は事実ではない。ところがオーストラリア国内での供給が異常に少ないことから、樽1本あたりの価格が2000豪ドル(1500米ドル)以上と高騰している。これはわずか数年前の倍にもなる計算だ。ここのところ多くの国では新樽の比率を減らしてきていたが、古典的なオーストラリアの赤ワインは非常にパワフルで固く、それを和らげるためにも新樽の力が必要なのだ。

さらにオーストラリアに最も影響を与えているのが輸送のボトルネックだ。オーストラリアのおよそ60%は輸出されている。酒好きな国内市場とはいえ、長期にわたるロックダウンとそれに伴いレストランやバーからの発注がゼロとなった現状では滞った輸出を補うほどの消費は期待できない。

自宅を修繕したり、国境を越えて移動したりしている人ならおそらく認識しているだろうが、現在は世界的に輸送コンテナが不足している。だが、修繕や引っ越しは1回限りのことだ。オーストラリアが、ヨーロッパを除き(もっとも、最近はチリが数量ベースで首位だ)価格ベースで世界最大のワイン輸出国としての地位を維持するためには、ワインを輸出し続けなくてはならない。ところが昨年末、中国がオーストラリアワインの輸入に不利となる大きな関税をかけた。そのためにオーストラリアにとって最も金になる市場が失われたことも考慮すると、広く知られるオーストラリア人の「為せば成る」精神すら試されている状況と言えるだろう。

オーストラリアを拠点とするワイン複合企業で、そのトップにペンフォールズを擁するトレジャリー・ワイン・エステートは、この中国が仕掛けたオーストラリアワインの事実上の輸入禁止によって昨年度に被った売上高の損失を7730万豪ドルと見積もる。ただ、この企業は特にクリエイティブなことで知られており、現在は中国で人気の高かったローソンズ・リトリートに使うワインを南アフリカから調達することにしている。そのラベルは最近までオーストラリアワインを原料としていたボトルに使われていたものと、文字が小さいという以外は全く見分けがつかない。どうやらトレジャリーは昨日の「ワイン・オブ・ザ・ウィーク」や、こちらの新しいシャンパーニュの話から見ると、地理的に手を広げる戦略にあるようだ。

オーストラリアの発展といえば、内陸にある大きな3つの産地、リヴァーランド、マレー・ダーリング、リヴァリーナだ。これらは日常的に灌漑を施した畑から、例えばほとんど全てのアペレーションを包含するサウス・イースタン・オーストラリアなどとして販売される安価なブレンド・ワインの原料となるワインを生み出している地域だ。この地の生産者たちはオーストラリアのワイン生産量のうち数量ベースで70%ほどを創り出しており、税金を通じて公的機関であるワイン・オーストラリアに大きく貢献している。

先月、彼らはオーストラリアのワイン政策に大きな発言力を持つことを目的とした新たな組合、オーストラリアン・コマーシャル・ワイン生産者組合(ACWP)の設立を宣言した。ある程度正当性も感じられる彼らの主張は、オーストラリアのマーケティング活動や、広く敬意を集めるアカデミックなワイン研究の全ては、そのほとんどを支えているのが安いワインを造っている彼らであるにも関わらず、オーストラリアの上質なワインを助けることだけに向けられているように感じられるというものだ。だが、「プレミアマイゼーション(訳注:より高額なワインへのシフトを促すこと)」を目指し活動をしてきたにもかかわらず、オーストラリアのプレミアム・ワインの輸出量は中国を除いて見てみると2009年以来およそ半減しているのである。

ACWPはまた、徴税構造の見直しについても求めており、特に彼らのビジネスになくてはならない灌漑用水の供給にもっと注力して欲しいとの意向を示している。また、最近オーストラリアとイギリスの間で結ばれた貿易協定についても、毎年イギリスにバルク輸送される2500万ケース相当のワインのような、安価なワインがもっと多く輸出されることを願っている。これらのバルクワインは瓶詰めされてから輸出されるワインの6倍の量で、そのほとんどがACWPの生産者が造ったものだ。

私には彼らが不当に扱われていると感じる理由が理解できる。そして、巨大なオーストラリアの中で長きにわたり無視されてきたこれらの産地から近年非常に面白いワインが生み出されている点については個人的に興味を持っている。去年の7月に行った、現在はイギリスにも輸入されている130ものひねりの効いたワインのテイスティングでは、誇らしげにラベルにリヴァーランドと記載したワインは3本以上、マレー・ダーリングと記載したものも1本含まれていた。

フロム・サンデーというブランドの立役者であるワインメーカーたちは今、マレー・ダーリングのピノ・グリからヌエヴァ・ダングリア・ロゼを造っている。これはテクスチャを加えるために果皮と共に接触させ、様々なフルーツ・フレーバーのオイルを加えたのちにガスを注入したものだ。ブドウ以外のフルーツを使うという北アメリカの生産者たちの独創的な発想が今、オーストラリアで最も無名の地域で生かされている。

デリンクエンテ・ワインの2021ヴェルメンティーノは醸造してわずか数か月のものだが、リヴァーランドに育つ、サルデーニャの白ワイン用品種を完璧に再現したと言えるだろう。心地よいドライなフィニッシュで、アルコールはたった10.5%だ。名の通ったオーストラリアの他の産地同様、革新的なリッカ・テッラ(Ricca Terra)やカラブリアなどにけん引されこれら内陸の、灌漑された産地の生産者の多くは、著名な国際品種ではなく、オーストラリア人が「代替品種」と呼ぶ品種に力を入れており、その多くがイタリア系品種だ。

品種といえば、6つのイギリスのインポータが提案したオーストラリアの新星ワインのセレクションを見ると、オーストラリアでシラーズという名のブドウほど時代遅れの品種はないということがわかる。生産者の多くはそのワインを原産地フランスの呼び名であるシラーとラベル表記する。そのスタイルもフレッシュでミネラル感のある北ローヌのコート・ロティに似たもので、濃厚で薬っぽいバロッサ・シラーズを模したものではない。

遅ればせながら、オーストラリアの株仕立てのグルナッシュもしかるべき尊敬をようやく集めるようになった。凝縮感のあるシャトーヌフ・デュ・パプと対照的な、スペインで今流行のデリケートで甘やか、そして透明感のあるワインが造られている。カリフォルニア同様、オーストラリアは非常に樹齢の高い古木の宝庫であり、今それを最大限に活用している。

その他の流行としては、驚くべきことと言えるかもしれないが、スクリューキャップ離れだ。オーストラリアの生産者たちは今世紀初頭、彼らが売りつけられた天然コルクの質の悪さにうんざりして一斉にスクリューキャップを採用した背景がある。ところが現在、特に深刻な事情は見当たらないにもかかわらず、オーストラリアの棚には天然コルクを使ったものが見られるようになった。この傾向は少量生産のワインに顕著だが、スクリューキャップの方が技術的に優れていると信じている生産者ですら、そのような選択をしている点は指摘しておきたい。すなわち、いわゆるマーケティング戦略ということだ。

ああ、それからこういった新しい生産者のラベルや名前だが、従来見られたものと相容れないものほど評価が高い。デリンクエンテの微発泡のリヴァーランドの白はタフ・ナッツ・ビアンコ・ダレッサーノだ(訳注1参照)。ブリジット・ジョーンズの時代に輸出市場でその名をはせた安価なサウス・イースタン・オーストラリアのシャルドネとは隔世の感だ(訳注2参照)。

*訳注1:商品名のスペルはTuff Nuttですが、同じ発音のTough Nuts=荒くれ者のくそ野郎 的な意味とかけた駄洒落と思われます。
*訳注2:映画「ブリジット・ジョーンズの日記」でブリジットは失恋するたびに酒に溺れ、その際に飲んでいたのがオーストラリアの安いシャルドネ(=上記で取り上げた大量生産の産地のものを暗に指す)でした。ちなみに、映画サイドウェイズでメルローの人気がガタ落ちしたのと同様、イギリスではブリジットのせいでシャルドネの人気がガタ落ちしたとされています。 参照:https://wineeconomist.com/2008/05/29/sideways-meets-bridget-jones/

お勧めの旬なオーストラリアワイン

白ワイン
Ministry of Clouds Riesling 2020 Clare Valley 12.1%
From £21.53 Vinebud, St Andrews Wine Company, Pip of Manor Farm

Sigurd, White Blend 2020 Barossa Valley 12.5%
From £23.79 Iconic Wines, Vin Cognito, Bottle & Jug Dept, Pip of Manor Farm, North & South Wines

Place of Changing Winds Marsanne 2019 Heathcote 13%
£40 Pip of Manor Farm

Wilimee Chardonnay 2020 Macedon Ranges 12.6%
£55 Pip of Manor Farm

赤ワイン
Aphelion, Welkin Grenache 2020 McLaren Vale 13.6%
£21 Pip of Manor Farm, £24.95 The Whisky Exchange

Murdoch Hill Syrah 2017 Adelaide Hills 13.5%
£26 The Salusbury Wine Store, Pip of Manor Farm

Ministry of Clouds Grenache 2019 McLaren Vale 13.9%
£27.95 Master of Malt, £29.50 The Good Wine Shop

Luke Lambert Syrah 2019 Yarra Valley 13.5%
£33.95 Vinified Wine, £37.50 The Sourcing Table

Bellwether Cabernet Sauvignon 2014 Coonawarra 13.5%
£35-£39 Woodshire Wines, The Whisky Exchange, The Good Wine Shop

Koerner, Vivian 2019 Clare Valley 13.9%
£39 Pip of Manor Farm

Timo Mayer Syrah 2019 Yarra Valley 13%
£48 The Sourcing Table

Bannockburn, De La Roche Shiraz 2011 Geelong 13.5%
£49 Vinoteca

Timo Mayer, The Doktor Pinot Noir 2018 Yarra Valley 13%
£49.95-£51.30 Vinified Wine, Marlo Wine, The Sourcing Table, Theatre of Wine

Cirillo, 1850 Ancestor Vine Grenache 2014 Barossa Valley 14%
£49.95 (2013) St Andrews Wine Company, £59.80 Hedonism

Wilimee Pinot Noir 2020 Macedon Ranges 12.6%
£60 Pip of Manor Farm

世界の取扱業者についてはWine-Searcher.comを参照のこと。

また輸出市場で入手可能な、ひねりの効いたオーストラリアワインのテイスティング・ノート67本はこちらから。

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