ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

148.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のかなり長いバージョンである。お近くの取扱い業者についてはWine-searcher.comを参照されたい。先週紹介した赤原文)も。

ここ数か月でテイスティングした数千に及ぶノートを見返していて、その価格がしきりに気になった。幸運なことに偉大なブルゴーニュの白(例えば最近公開した「Burgundy, Beaujolais – a compilation」を参照してほしい)、すなわちクラシックな辛口ワインをテイスティングする機会もあったが、それらが最高の飲み頃を迎えるころには、小売店で見つけ出すのはほとんど不可能であろうし、価格も爆発的に高いと思われる。

今、価格にうるさいワイン愛好家に思い出してほしいのは先の5月に掲載したクメウ・リヴァーのシャルドネと、ブルゴーニュの最高峰の白ワインの比較テイスティングで、このニュージーランド・ワインが勝ったという記事だ。クメウ・リヴァー・エステイト・シャルドネは多くのイギリスの小売店で購入可能で(またネットではThe Wine SocietyやWaitroseで可能)、1本17.5ポンド程度だ。以下にその他のお勧めを価格の安い順に並べてみた。

タビルク・マルサンヌ 2011ナガンビー・レイクス(Tahbilk Marsanne 2011 Nagambie Lakes;11ポンドから;Hic Wines他多くの小売店)はばかばかしいほど安価で、偉大な北部ローヌの品種から作られるライムの皮の香りがいっぱいに詰まったフルーティで十分に成熟したワインにしてはアルコールが軽やかだ。

マコンはクラシックなコート・ドールの手ごろな価格の代替品を探すには最もわかりやすいのだが、希薄なワインが多すぎて、高みを目指す熱意のこもったものがあるとすればそれはけして安価ではない。そんなな中エリティエール・ラフォン(Heritiers Lafon;約12.5ポンドから)のワインはムルソーの最も偉大な生産者の作るマコン版だが、安定して優れた品質だ。私は最近なんとも頼りないラベルのつけられたコーニー&バロウ・ホワイト・バーガンディ2014 マコン・シャントレ(Corney & Barrow White Burgundy 2014 Mâcon Chaintré;11.5ポンド;Corney & Barrow、自身のウェブサイトで大きく取り上げるほど生産量がないようだtel 020 7265 2340)に心を奪われた。その出会いは偶然が重なったもので、テレビのワイン・スター、元ベイ・エイリアの高級ワイン・インポータであるマーティン・ソニエ(Martine Saunier)を経由してドミニク・コルナン(Dominique Cornin)から入手したもので、内向的なスモーキーさと凝縮感は価値がある。

注意深く探せば、長期間の瓶熟成を経た手ごろな価格の上質な白ワインに出会うことができる。私の場合はラ・トゥール・デ・ヴァン 2011 ベルジュラック(La Tour des Vents 2011 Bergerac ;10ポンドまたは6本で50ポンド;Borough Wines)を見落とすところだった。つい最近ロンドンのキングス・クロスで開催されたワイン・カー・ブートのワイン商たちの懇親会で出会わなければ、おそらくそのピークを越してしまっていただろう。おそらくかなりの割合を占めるセミヨンが長命さ、安定感、そして面白さをソーヴィニヨン・ブランに与えている。味わい豊かで力強いが甘口ではなく辛口のワインで、まだあと2年は楽しむことができる。

チリで最高級のものもまた、最近は白のブルゴーニュの対抗馬となる。パンドルフィ・ブライス・ラークーン・シャルドネ 2013 イタタ(Pandolfi Price, Larkün Chardonnay 2013 Itata;12ポンド、Vine & SunおよびBerry Bros & Rudd)はシャブリのような驚くほどの繊細さを持ち合わせ、ブルゴーニュで多くのワインづくりの経験を積んだ人物によって作られている。もっとも彼自身はこの類まれなる畑からただのコピーを作り出すつもりはないと頑なだが。 ストーン(Stone)や、ヴァイン&サン(Vine & Sun)からもたったの2ポンド少しでエラスリス・シャルドネ2014 アコンカグア・コスタ(Errázuriz Chardonnay 2014 Aconcagua Costa)が入手可能だ。これもまた透明感のある味わいのワインで、こちらの冷涼な影響はその高い緯度というよりは太平洋への近さによるものだ。

高級化の波は間違いなく品質の良い個人のワイン商にも間違いなく表れている。さらに進んで、ウォルサムストーにはそこを拠点とすることに誇りを感じるフォレスト・ワインズ(Forest Wines)があり、アルコール度数わずか12%のM&Aアンドルファー・ストラサータル・クリューナー・フェルトリナー 2014 カンプタール(M&A Arndorfer, Strassertal Grüner Veltliner 2014 Kamptal)を12.99ポンドでオン・リストしている。オーストリアの代表品種の特徴を非常に良く表したこのワインは、素晴らしく刺激的な芳香に続く溌剌としたグレープフルーツの香りに満ち溢れている。

ピノ・グリージョをご存じだろうか?ヴェルス・ピノ・グリ 2013b スロベニア(Verus Pinot Gris 2013 Slovenia;約13ポンド、Butlers Wine Cellar, Corks of Cotham, Field & Fawcett, Woodwinters)は他のピノ・グリージョとは大きく異なる。通常のピノ・グリージョと違い、アルザスのピノ・グリージョの持つ深みのある香りに満ちている一方でイタリア北東部のフリウリ最高のピノ・グリージョのような溌剌としたフレッシュさを持ち合わせており、完全な辛口だ。ヴェルスの品種シリーズの白はじわじわと値上がりを続けているが、それでもまだ相当なお値打ちだろう。

フリウリの州境にわたって作られるカステッロ・ディ・ブットリオ・モン・ブラン2013 コッリ・オリエンターリ・デル・フリウリ(Castello di Buttrio, Mon Blanc 2013 Colli Orientali del Friuli;15ポンド The Real Wine Co)は樽のかかっていない3種の地ブドウ、フリウラーノ、リボラ・ジアッラ、イストリアン・マルヴァジア(Istrian Malvasija)のチャーミングなブレンドだ。ヴェルスのピノ・グリのように非常にフレッシュで透明感がありつつ味わいの中ほどに感じる愛らしい蜂蜜の香りが、鮮やかな一筋の緑によって引き立てられている。まさに中欧という印象だ。

ひときわ目を引く樽を使わないイタリアの白で同じ産地の物にはカ・ロヘーラ 2014 ルガーナ(Ca’Lojera 2014 Lugana;15ポンド、Passione Vino)がある。オレンジ・ピールが鼻をくすぐり、強く食欲をそそるジューシーな果実味はガルダ湖の南岸に広がる小さな産地に育つヴェルデッキオによるものだ。

今年出会ったワインの中で最も心躍ったものの一つがロンドンのギリシャ・ワイン・フェスティバルでテイスティングしたシガラス・アシルティコ 2014 サントリーニ(16.8ポンド、Maltby & Greek)の最新ヴィンテージで、エーゲ海に浮かぶこの特異な火山島にある樹齢50年以上のブドウから作られる。辛口でレモンの香りがする輪郭のはっきりしたワインで、最近テイスティングした2008が雄弁に語る通り、素晴らしい熟成の可能性を秘めている。アシルティコは明らかにギリシャの偉大な品種であるため、ジム・バリー・ワインズ(Jim Barry Wines)のピーター・バリーはそれをオーストラリアの非常に厳しい検疫システムを通過してクレア・ヴァレーに持ち込んだのだ。

クレア・ヴァレーの古典的な白ブドウ品種と言えば、気温の高さを考えるとやや意外と言えるドイツのリースリングで、中でもジェフリー・グロセット(Jeffrey Grosset)がクレア・リースリングの無冠の王である。ポリッシュ・ヒルが彼の最も有名な銘柄だが早熟で身近なものはグロセット・スプリングヴェール・リースリング 2013 クレア・ヴァレー(Grosset, Springvale Riesling 2013 Clare Valley;20ポンド、Altus, Invinity, Secret Cellar, Wine Bear)だろう。私はこれまでがっかりしたヴィンテージに出会ったことがないし、このスプリングヴェールですら10年は熟成が可能だ。まさに古典である。

コート・シャロネーズはマコンと偉大なコート・ドールの中間地点にある。ほとんどのシャロネーズのワインはやや野暮ったい印象がぬぐえないのだが、ジャン・バティスト・ポンソ・モンパレ・プルミエ・クリュ 2013 リュリー(Jean-Baptiste Ponsot, Montpalais Premier Cru 2013 Rully;20ポンド、Domaine Direct 020 7404 9933)は多くの偉大なブルゴーニュ白より繊細でさらなる熟成も期待できる。

さあ、新しいものにも目を向けよう。ヴァーニャ・カレン(Vanya Cullen)はオーストラリアで最も尊敬を集めるワイン生産者の一人だが、彼女は私同様、オレンジワインという新しい流行に注目している。これはオレンジ色をした白ワインのことで、赤ワインのようにブドウの果皮と接触させて作られる。カレン・アンバー 2014 マーガレット・リヴァー(Cullen, Amber 2014 Margaret River;23ポンド、Corking Wines, Noel Young, Oz Wines, Wine Bear)はその美味しい産物だ。桃や杏の香りを伴うややコシの強い味わいで、魅惑的なセミヨンとソーヴィニヨンのブレンドだ。今年は遅摘みのブドウを鳥に食べられてしまったので、このヴィンテージを逃す手はない。

私はありふれたマルボロのソーヴィニヨンのファンではないが、標高の高い畑で作られるサム・ウィーバー・チャートン・ベスト・エンド・ソーヴィニヨン・ブラン 2013マルボロ(Churton, Best End Sauvignon Blanc 2013 Marlborough ;24.9ポンド、Tanners)には大きな感銘を受けた。その香りは果実よりもミネラルが優勢で、あと3年はどんな場面でも十分に楽しめるだろう。

素晴らしいブレンド、アルヘイト・カルトロジー 2014 ウェスタン・ケープ(24.95ポンド、Edgmond, Harvey Nichols, Hedonism, Old Bridge, Swig, Woodwinters)の2011ヴィンテージは3年前ジュリアのワイン・オブ・ザ・ウィークで取り上げた。クリスとスザーンのアルヘイト夫妻はシュナンとセミヨンの古樹から更によいワインを生み出している。彼らがウェブサイトで述べている通り、非常に酸が高い(訳注参照)が滑らかな緑のハーブとフルーツが感じられる。本当に歓喜に満ちた、今のところ彼らの最高のヴィンテージだろう。(訳注;ウェブサイトでは” taught”と記載されているようだが「酸の高い」tartと「教えるの過去分詞」taughtは発音が同じための誤記と思われます)

今や彼も独り立ちし、ビヨー・シモンの畑を徐々に再構築しているが、サミュエル・ビヨーは最もシャブリらしいシャブリを作る。サミュエル・ビヨー・モン・ド・ミリュー・プルミエ・クリュ 2012 シャブリ(25.5ポンド、Haslemere Cellar)は既に他の2012のプルミエクリュよりも表現力に富み、蜂蜜とスモーキーな香りをまとう。非常に長い余韻と満足感は、最高ののど越しだ。

世界の大きな謎の一つはなぜ偉大なドイツのリースリングの価格がもっと高くならないのか、である。ワイン・ソサイエティのセバスチャン・ペイヌMWは熟成した掘り出し物を引き出すのが上手い。ヴォン・ケーゼルスタット・ピースポーター・ゴルドトロップフェン・ランゲ・ゴルドカプセル・リースリング・アウスレーゼ 2006 モーゼル 7.5%(Von Kesselstatt, Piesporter Goldtröpfchen lange Goldkapsel Riesling Auslese 2006 Mosel ;26ポンド、The Wine Society)は複雑で成熟し、フルーティでデリケートかつアルコール度数が7.5%しかないワインを望む向きには素晴らしくコストパフォーマンスが良い。読書をしながら、あるいは映画を見ながら飲むのに最適だ。さらにハイン・リースリングの2012ヴィンテージ(16.7ポンド、Tanners)にも感動したが、現行ヴィンテージは2013に変わってしまっていた。

骨格とアルコールが14%と性質が全く異なるものはシャトー・マリ・ブラマ・グルナッシュ・グリ 2012 ヴァン・ド・フランス(Ch Maris, Brama Grenache Gris 2012 Vin de France;27ポンド、Hic Wines、27.5ポンド、Armit)だ。息をのむほど緊張感と凝縮感のあるワインはピンクの果皮をしたグルナッシュの変異種から作る白ワインがどれほど偉大な辛口ワインとなりうるかを示してくれる。これはバーティ・イーデン(Bertie Eden)がフェリーヌ・ミネルボワ(Félines-Minervois)のうえにある岩だらけの畑でカリニャンと混植しているブドウから作っている。

ほんの少し価格が上がるが、クリスタラム・クレイ・シェール・シャルドネ 2014 オーバーバーグ(Crystallum, Clay Shales Chardonnay 2014 Overberg、28ポンドから、Handford, Slurp.co.uk, Wine Bear他)はピーター・フィンレイソン(Peter Finlayson)が作る。これは1月にテイスティングした時よりもさらに熟成した強さと複雑さが感じられ、南アフリカが得意とする最も洗練されたスタイルの例である。

そして最後に、オーストラリアの古典、すなわち品種、産地、熟成と生産者の組み合わせの例を挙げよう。ティレルズとマクウィリアムズはハンターのワイン一族で、Vat1はシャルドネという品種を誰も聞いたことがない頃から数十年にわたり栄えてきた。残念ながらおそらくオーストラリア・ドルが急騰したころにイギリスに輸入されたのだろう。 だがこの価格でこの品質の2009の白をブルゴーニュやボルドーで探すのは至難の業だ。ティレルズ・Vat1セミヨン 2009 ハンター・ヴァレー(Tyrrells Vat 1 Semillon 2009 Hunter Valley、約35ポンド、Berry Bros & Rudd, Harrods, Mill Hill Wines, The drinkshop.com, vintagemarque.com, VinQuinn, Roberts & Speight)は最も樹齢の高い(接ぎ木なし、灌漑なし)ブドウから作られ、かなり早い段階で瓶詰めしている。このスタイルは何年もの間たったの11.5%のアルコールにも関わらず瓶内で熟成するタイプだ。突き刺すようなライムの花の香りでごく辛口、研ぎ澄まされた余韻。

お勧めのオーストラリアのシャルドネ、実質的に最近の全てを集めた一覧も参照してほしい。「compilation」と検索ボックスに入力し、「Everything else」を選択して実行するだけだ。

原文