ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

383.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。写真はオーストラリアの低アルコール・スペシャリスト、マク・フォーブス。

北米の西海岸と違い、今ヨーロッパは異常に雨が多く移り気な初夏の気候の真っただ中だ。そのためヴィニュロンたちはいつ何時でも動けるように待機し、その多くはブドウが特に弱いカビ病を防ぐために狂ったように農薬を撒いている。一方、近年のヨーロッパの夏を考慮すれば、7月と8月は暑く乾燥することが多い。ブドウにとっても、畑で働く人々にとっても、日焼けは赤道からはるか遠いドイツですら問題となっている。

2021年の夏がいつものように暑くなるなら、冷房の効いた住みかを持たずにワインを飲む我々のような人間は、買い物リストの上位に重く強い赤ワインを書くことはないだろう。冷たく冷やした白や今流行りのロゼが目的に叶うものだろう。ただし、どうしても赤ワインが必要な場面もあるはずだ。また、中には白ワインはどうしても好みではなく、赤ワインばかりを飲んでしまう、という人もいるだろう(偶然にもニュージーランドのMW、ソフィー・パーカー・トムソンは最近、ワイン・アレルギーの要因に関する画期的な調査を実施している。それによれば事実上すべてのワインラベルに記載されている亜硫酸はその主要因ではない可能性があるそうだ)。

そこで、冷やしても美味しい、アルコール度数の低い赤ワインを紹介してみようと思い立った。だが、そもそも現代においてアルコール度数が低いとはどのレベルを指すのだろうか。

1990年代と2000年代初頭はアルコール度数が高いことが良いとされていた時代だ。特にカリフォルニアではブドウをわざと長い期間樹にぶら下げたままにしておいたので、糖度と、もちろんその結果としてワインのアルコール度数が非常に高くなった。ただ、少なくとも多くのカリフォルニアの畑は、例えばボルドーよりもはるかに冷え込む夜の恩恵を享受することができるのに対し、ボルドーでは年々暑くなる夏の影響でワインのアルコール度数は容赦なく上がり続けている。

ロンドンに拠点のあるワイン取引プラットフォーム、Liv-exはその20年にわたる歴史を通じて収集したデータの量を誇る。ブレグジット後に多量の書類が必要とされるようになった結果、昨年からLiv-exでは取引に関わるすべてのワインのアルコール度数を記録するようになった。そして最近、そこに非常に顕著な傾向が認められたことを発表した。彼らは提供された3万5千本ものワインのアルコール度数を記録し、倉庫にある実物のラベル(もちろん、常に正確とは限らない和訳))に記載してある度数と比較した。すると実に2万本が記載と異なっていることが分かったのだ。彼らのプレゼンテーションによれば、彼らはその結果をヴィンテージごとに1990から2019まで10年ごとに分類して分析している。

1990年以降のアルコール度数の変遷(出典: Liv-ex)

明らかなことは、調査の対象となった5つの地域のうち、いまでもカリフォルニアが最もアルコール度数の高いワインを生産していることで、平均は14.6%だった。Liv-exで取引される(すなわち非常に高価な)ワインのうち、ピエモンテとトスカーナの平均アルコール度数がそれに続き、14%を少し上回る程度だった。そして平均13.8%のボルドー、13.3%のブルゴーニュが続く。

ところが、カリフォルニアのアルコール度数は最近やや減少傾向にあり、ブルゴーニュとイタリアは今世紀を通じて安定しているのと対照的に、ボルドーのそれは顕著に上昇しているのだ。1990年代には平均12.8%だったものが次の10年で13.4%となり、次の10年では13.8%となっている。ボルドーはかつて、食欲をそそり、胃に優しいワインを生み出すことで有名だった地域なのに。

ということは、1970年代には10.5%や11%が低アルコールだと考えられていたかもしれないが、現在は12.5%以下とラベルに記載のあるものがそれに該当すると言っていいだろう。だがこれほど低いアルコール度数のワインは比較的珍しいので、ジャンシスロビンソンドットコムの他のメンバーにも補足案を募ってみた。例えば、ロワールヤボージョレなどのテイスティング・ノートになら適切な候補は見つかるだろうと思ったが、そんな地域ですら、温暖化に伴ってアルコール度数は上昇を続けているのだ(念のためノンアルコールの赤ワインも試してみたが、お勧めできるものはなかった)。

予想外に面白かった点はギリシャ、南アフリカ、オーストラリアなど暑い夏を連想するような地域、当然ブドウの熟度は高く、アルコール度数が高いだろうと思われる地域から多くの低アルコールワインが見つかった点だ。ギリシャでは、夜の冷え込みがブドウの成熟速度を遅くするような高地にある畑から造られるワインが、アルコール度数が低い理由の一つを示しているようだ。オーストラリアでは(そしてもちろんカリフォルニアの生産者も)、かつてアルコール度数の高さを追求した反動から、ブドウの収穫を比較的早く行った低アルコールのワインを造るのが流行となっている。

以下に記載した南アフリカのワインは全てサンソー主体のもので、かつて南アフリカで最も栽培面積の大きかった赤ワイン用品種だ。現在その価格は比較的安い。これはおそらく、サンソーにケープの新星ワインメーカーたちが惹きつけられる理由の一つかもしれない。彼らのほとんどは自分の畑を所有しておらず、ブドウを購入しているからだ。彼らはオーストラリアの同胞と同じく、アルコールレベルを抑えることに敏感だが、以下のワインから推測するにサンソーからはアルコール度数が低くても満足のいくフルーティなワインができるようだ。

以下のワインは特別に記載のない限りアルコール度数が12%または12.5%のものだ。

ラングドック
Mas Seren, Étincelle Nomade 2020 IGP Cévennes
ラングドックの平地を見下ろす小高い丘にある有機認証を受けた畑の黒コショウのようなシラーとサンソーのブレンド
£13.50 Stone, Vine & Sun

Alain Chabanon, Campredon 2017 Languedoc
完璧に熟成した、樽を用いないシラー、ムールヴェドル、グルナッシュのブレンド
£25 Dynamic Vines

イタリア
Brezza 2020 Dolcetto d’Alba
ピエモンテらしさに溢れ、最も魅力的なドルチェット。樽熟成したバルベラを模すのではなく、デリケートさを表現している。
£15.49 Strictly Wine (sold by the case of 6 bottles)

Villa Cordevigo, Classico 2017 Bardolino
ガルダ湖で造られるピノ・ノワールのようなフレッシュで軽やかな赤ワインは我らがタムリン・カリンのお気に入り。彼女は20点満点中17点をつけた。
From €7.73 in Italy

ボルトガル
Filipa Pato & William Wouters, DNMC Baga 2019 Bairrada
バガは挑発的なまでに固く、個性あふれるバイラーダの赤ワイン用品種で、フィリッパ・パトはポルトガル北部にあるワイン産地の指導者の娘だ。ウッターズは彼女の夫でソムリエでもある。
£16.95 Wine & Greene, £17.25 Bar Douro

Azores Wine Company, Tinto Vulcânico 2018 IGP Açores
歴史と地理がグラスの中で類まれなる融合を見せる。有機栽培の固有品種のブレンドは、大西洋の真ん中にある火山性のアゾレス諸島にある、吹きさらしの畑から生み出される。
£23 Amathus Drinks

ギリシャ
Lyrarakis Liatiko 2020 PGI Crete
若々しくフレッシュかつアロマティックなワインはクレタ島の赤ワイン用品種で造られる。この品種は若いうちはかなりタンニンが強い場合もある。
$18.99 Compass Wines, Washington State

Methymnaeos Chidiriotiko 2019 PGI Lesvos
チディリオティコはレスボス島固有の品種で色が薄くアルコールも低いワインができるが、個性に事欠くことはない。有機認証取得。
€14.90 House of Wine, Greece, but it should arrive at Kudos Wine, UK, soonish

Chatzivaritis, Carbonic Negoska 2020 PGI Slopes of Paiko
ピュアでクラッシュしたマルベリー、ふくよかな味わいに魅惑的で軽やかなタンニンがドライなフィニッシュをもたらす。これほど珍しく、面白いワインもないだろう。典型的なピクニック用ワインかも?ただし、冷却用グッズは必須。
About to be released; the 2019 is available at £23.50 Maltby & Greek and other independents in the UK, France, Germany and Greece

カリフォルニア
Birichino, Bechthold Vineyard Old Vines, Vignes Centenaires Cinsault 2018 Mokelumne River
またしてもサンソー。1886年に植えられたローダイの畑のもの。非常に雄弁で、ピュアで趣のある果実味に溢れている。
From $25.99 and widely available in the US

南アフリカ
Waterkloof, Seriously Cool Cinsault 2019 Stellenbosch
2013年以来ジャンシスロビンソンドットコムで人気の、この有機ワインのバックラベルには「冷やして飲んで、でも本格的に」と書いてある。甘く優しいこのワインは冷やして飲むよう勧める意味がよくわかる。フレッシュさを保つには温度が低いことが重要なのだろう。酸はやや低め、タンニンは明らかに低いが、低アルコールで食べ物なしで楽しめる赤ワインを探している向きには偉大かつ容易な選択肢だ。
£10.79 Rannoch Scott Wines

Rall Cinsault 2019 Coastal Region
コンクリートと古樽の両方を用いて熟成させた、鮮やかなレッドチェリーの味わいが印象的で、まろやかで魅力的なワイン。非常に若くして、そして低めの温度で飲むべきワインだが、素晴らしい表現力を見せる。赤の食前酒として最適だが、逆に強い味わいの食事と合わせるには軽すぎる。
£19.50 Wine Direct, £22.95 Jeroboams

Radford Dale, Thirst Cinsault 2020 Stellenbosch
樹齢の高い株仕立てのブドウは無灌漑で栽培され、ジューシー。同僚のMW、ジュリア・ハーディングをして「歓喜のワイン」と言わしめた。明らかに、やや冷やして飲むために作られたワイン。
£11.80 VINVM

Natte Valleij Cinsaults
この品種を得意とする歴史的なワイナリーで造られる、南アフリカの様々な産地のブドウによる驚異的なワインの数々。
£19.99 Museum Wines

オーストラリア
Mac Forbes, Healesville Syrah 2018 Yarra Valley
この生産者はまさに低アルコールワインの王者だ。2016がとてもよかった。ただし、この11.5%の2018は未テイスティング。
£28 The Wine Society

ニュージーランド
Forrest Estate, The Doctors’ Pinot Noir 2019 Marlborough
たった9.5%で、アルコール度数をできるだけ低くするために栽培し、意図的に早摘みしている。ただ、かなり酸っぱい。
£13.50 Frontier Fine Wines, £13.90 Gerrard Seel

完全なテイスティング・ノートとスコア、お勧めの飲み頃はこちらを、世界の取り扱い業者についてはWine-Searcher.comを参照のこと。

先の1月にタムのお勧めを掲載したno- and low-alcohol drinksもぜひご一読を。

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